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「初めての恋愛だったから、セーブの仕方が分からなかったんだ」
「良いと思うよ。裕貴さんらしくて」
裕貴さんは、こうと決めたら突っ走る節がある。だから僕も、そんな裕貴さんの行動力や好奇心に溢れている姿が好きだったのだ。
「そうかな。ありがとう」
僕の手を強くにぎり、裕貴さんが笑う。温かくて大きな手に包まれ、ずっとこのままだったら良いのにだなんて、僕は叶わない事を願っていた。
その時、扉をノックする音が聞こえて、僕は裕貴さんの手から逃れる。
「すみません。そろそろ――」
ドアがスライドされ、顔を出した看護師に告げられる。
僕が「すみません」と言って、頭を下げると申し訳なさそうな顔で、看護師が立ち去っていく。
「また来るね」
僕はそう言って、ベッドから立ち上がる。名残惜しそうな顔で見上げる裕貴さんの視線から逃れるように、鞄を手に取った。
「ありがとう。でも、無理しなくて良いからね。奏斗 くんのこともあるだろうし……」
僕の心臓が跳ね上がる。慣れたはずだと思っていただけに、必死で作った笑みが歪に感じられた。
「ありがとう……でも、大丈夫だから」
僕は続けざまに、「また来るから」と再び繰り返して、病室を出た。
朱色に染まった病院の廊下を歩きながら、僕は泣きたい気持ちになっていた。
ザワつく心を持て余しながら、病院からの帰りにその足で実家へと向かう。
僕は裕貴さんに会った日は、必ずそうするようにしていたからだ。
実家には母がいた。一瞬ハッとした顔をしたけれど、僕だと分かると顔色が変わる。
それから、「帰ったのね」と言うだけで、夕飯の支度に戻る。
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