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僕は「うん」とだけ返事をすると、階段を上がって二階へと向かった。
僕は向かい合わせにある、僕の部屋とは逆の部屋のドアを開く。
中は真っ暗で、線香の仄かな匂いだけがしていた。
電気をつけると、僕の部屋と同じく、ベッドや勉強机が目に入る。家を出る前と同じ状態にしているらしく、好きだったサッカー選手のポスターが飾られていた。
一つだけ変わったことと言えば、新たに備え付けられたローテーブルの上に乗せられている遺影と骨壺だろう。
僕は目の前で正座すると、自分とそっくりな顔を見つめた。真っ直ぐこちらを見つめるような目が、まるで僕を責め立てるようだった。
「奏汰……裕貴さんに会ってきたよ」
僕はそう言ってから、ボイスレコーダーを取り出す。再生ボタンを押すと、さっきまですぐ近くで聞いていた声が、再び耳に触れる。
「裕貴さんはまだ、 僕を奏汰だと思ってる。きっと、現実を受け入れられないんだ。だから、もう少しだけ……奏汰でいさせて」
僕は贖罪を兼ねて、裕貴さんの口から語られる奏汰の話を録音して、こうして聞かせていた。
奏汰が事故で死んで、僕が奏汰になって一ヶ月。よくバレなかったと自分でも驚きだったけれど、双子の兄を真似るのはそう難しいことじゃなかった。
事故が起こった日は、土砂降りの雨だった。
裕貴さんを駅に迎えに行った奏汰は、裕貴さんを家に送り届ける途中で、スリップした車とぶつかって死んだ。
助手席に座っていた裕貴さんは、大怪我はしたものの、何とか一命を取り留めていた。
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