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第3話

「約束ですよー!」  まるで子供のように手を振る諒を見送って、倉吉も帰路につく。その足取りがいつもより軽くなるのを自分でも感じていた。  最近でさえ母が強硬な手段に出てきて辟易しているが、学生時代など、実は助けられてもいたのだ、この天性には。  おかしな噂が出回ったせいで、女性から誘われなくなった。 それは女性が恋愛対象ではない倉吉にとって、好都合でもあったのだ。  男とも女とも経験がないまま社会人になった。仕事は充実していて、恋愛は後回しになっていたのだが。 『わかります!!!!』  誰かにあんなに情熱的に触れられたのは、いつ以来だろう。 いや下手したら初めてか?  祖母の名誉のために、薄い肩をめいっぱい怒らせてキレちらかす姿。 自分に非があると思えば、心から謝る素直さ。  気がつけば倉吉の頭の中は、諒が見せるさまざまな表情でいっぱいだ。 おまけに共通の悩みを持つ仲間。  ――あんなに可愛いのに、今まで誰にも喰われなかったって、ほとんど奇蹟だな。  倉吉は生れて初めて神に感謝して、諒の祖母の店に行ける日を指折り数えた。  コーヒーと彼とを、美味しく味わえる日を。                  〈了〉

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