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第6話

「____お姉さん、このあとお茶しない?」 「っ……す、すみません」 おれの特技は相手に感情を悟られないこと。 交渉人を口車に乗せてしまうのもお手のものだ。 おれを嫌いな人間は多くても、容姿が嫌いな人間はそうそういない自信がある。 頬を紅潮させている受付係をあと一歩で落とせるというのに、志野に手をつかまれたことで終了。 「やめろ、肇」 「はぁー、まーた失敗。もうおれの邪魔しないでよ」 「クレジットでお願いします。ガキが盛ってんなよ」 「いたっ、あ! ねえ見て、志野。あんなところにみるモンがいるよ」 志野に連れられたのは都内でも有名な高級ホテルとかなんとかで、おれはよくわからないまま引っついてきた。 ホテルと長い付き合いになるとはいえ、高級ホテルに連れていかれたことは少ない。 みるモンはいわゆるご当地キャラだ。 この周辺に住んでいる人間しか知らないレアモンスターらしい。 「はは。みんな写真撮っててウケる〜」 「撮りたいなら撮ってやるぞ」 「え……」 「なんで俺に引いてんだ、ガキ」 「みるモンっておばけがモチーフだろ? 一緒に撮ったらなんか写ってそう」 「んなわけないだろ。ま、中身はいい歳したオッサンだろうけどな」 「夢くずれた……もうムリ」 「よわ」 項垂れているおれに"ほら行くぞ"と志野の手が伸びてくる。 手首をつかんで歩き始める志野。 おれはその状況を、まるで他人のように傍観していた。 手、あったかい。 「志野の手うまそー」 「どういう意味だ……」 「女を虜にするのが」 「……はぁ。言っとくが、ねだっても殴らねえからな」 「ふふ、志野は優しいな」 殴ってほしいとおれがいえば大抵の男はストレス発散に使う。 発散と性欲処理の道具。 本来それでいいのに、志野がそれを許してくれない。 自傷行為をしてもおれに怒らない。 手当てを何度でもしてくる。 本当にふしぎだ。 「うぅー……そろそろ誰かとセックスしないと干からびそう」 「これでも持ってろ」 「なに」 渡されたのはキツネのぬいぐるみ。 しかもかなりかわいい。 「……バカにしてる?」 「当たり前だ」 「いまムカついてる」 「それは成長したな」 「なにその反応、なんかやだ」 「お前やたらニコニコしててうさんくさい」 それは当然だ。 泣いたり怒ったりしたところで状況はなにも変わらない。 それなら最初から、負の感情なんて見せる必要がないんだ。

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