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第5話
亮雅とは小、中と同じ学校に通った。
クールな印象はあるものの、彼は人見知りと無縁の男だったらしい。
誰にでも話しかけるし、相手にもの怖じする姿は見たことがない。
「松本くん! 今日いっしょに帰りたいなっ」
「あーごめん、司郎とよるとこあるから」
「えっ、あ……そっか」
小学5年生になって、おれは完全に孤立した。
暇だからという理由でおれをいじめのターゲットにしていた同級生もいたし、自分に被害がこうむらないように一切話しかけてこないやつもいた。
亮雅はなかでも変なやつだ。
おれに対する周囲の重い空気には気づいていないかのように、いつもどおり話しかけてくる。
「帰ろ」
「……いいの? さっきの子と、帰っても」
「先約は司郎だし。そうそう、こづかいで買いたいものがあるからおまえの欲しいものも買っていいよ」
「お金、もってない」
「俺がおごってやるよ。でもいちいち遠慮すんなよ?」
「……」
おれは亮雅が神様のように見えていた。
どうして優しいのか、どうして話しかけてくれるのか、知りたくて。
だが、知れば後悔する気がした。
亮雅は誰にでも優しい。
その裏にはなにか企みがあるのかもしれない、それを知る勇気がない。
おれの家はマンションの1階にあり、両親はいつも飲みに出ていていない。
6畳の1DKに3人暮らし。
夜ごはんにはカップ麺やおにぎりが適当に置いてあって、それをいつも食べていた。
いつも同じ味。
投げられたまま放置のゴミ袋の山。
祝われない誕生日。
参観日も運動会も、誰もこない。
学校でも家でも、亮雅が誰かといるときはおれ1人。
「制服似合わねー。なんだこれ」
ふしぎな巡り合わせで、おれは亮雅とよく遊ぶようになっていた。
中学に入学し、同じ制服を着る違和感はすごかった。
「似合ってるよ、亮雅かっこいいもん」
「それはどーも。司郎は……ぷふっ」
「なんだよ」
「いや、なんかかわいいなって」
「幼いって言いたいんだろ。亮雅みたいなイケメンに産まれてたらなー」
「そんないいことないって。俺もう疲れたっていうか、みんな顔しか見てねえ」
「そりゃー、イケメンだから顔見るでしょ」
「勝手に期待して幻滅されんのめんどくさいっつの。光樹さんみたいに遊びまくろうかな」
光樹さんは亮雅の親戚で、茶髪にほんのり焼けた肌の男前だ。
容姿も言動もチャラくて苦手意識を持たれやすい人なのに、亮雅は光樹さんに憧れている節があった。
「なんで光樹さんのこと好きなの。いい加減なのに」
「女に対してはかなりだらしないけど、仕事はすげーできんだよ。あの人が言うことはいつも的を得ていて信用できる」
「へー」
「お前はいないのか? そういう尊敬してる人」
「うーん、亮雅かなぁ」
「なんだそれ、嘘くせ」
マジだし。
亮雅のことは尊敬していたし、いまでも尊敬している。
だが恋愛沙汰になることはお互いなく、おれのなかで一番の友人という印象だった。
「おれのこと嫌いにならないの、亮雅くらいだよ」
「それが尊敬する理由か?」
「うん」
「お前ほんと世の中狭いな……そのうち俺以上に尊敬できるやつが見つかるだろ」
「……うん」
亮雅はおれの言いたい意味をあまり理解していなかった。
きっと世界が広い彼には、おれの見えている世界も小さなものだろう。
だが、尊敬しているのはおれを嫌いにならないからじゃない。
自分の意思があって、誰にも流されない自分軸の生き方に憧れた。
友人がたくさん寄ってくるのもうなずけるほど、亮雅には目に見えない光がある。
そんな自分であれたら、なんて夢を抱かなくなったのはいつからだったのだろう。
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