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第15話

今日はクリスマス。 志野と昼からレストランに行くことになっている。 でもおれはこっそり家を抜け出しとある場所へきていた。 「__あれ……?」 「あ、優斗くんじゃん! おはよう〜」 インターホンを押して出てきたのは美人な優斗くんだ。 「どうしてここがわかったんですか?!」 「え、そんな驚く? 亮雅に聞いたよ」 そう、ここは亮雅の家だ。 昨夜ちょうど亮雅から連絡があり、ついでに寄ると伝えていた。 「あー! はしゃんだ!」 玄関に走ってきたのは昨日公園で会った陸だった。 昨日の通話で知ったが、どうやら亮雅の子どもだったようで。 偶然か必然か。 「おー、陸ちゃんまた会ったな〜。それ気に入ってくれた?」 「サンタ! めりくります!」 「うん、めりくります〜! これは優斗くんにだよ」 「えっ」 プレゼントをもらえると思っていなかったのか、優斗くんは目を丸くしておれを見上げる。 「ありがとう、ございます……俺なにも用意してないのに」 「いいよいいよ。昨日ちょっと気まずい思いさせたし」 光樹さんのことだ。 知らなかったとはいえ1人で盛り上がりすぎていた。 「わざわざすみません」 「優斗くんいい子すぎ。もっと適当でいいよ、亮雅には誰よりも世話になっていたからその家族も同じだ」 「はしゃん、おいしいにおいする」 「だろ〜? おいしそうな匂いがするものは食べたくなるしなぁ」 「……あの、肇さんて、もしかして……俺と同じですか」 同じ? 一瞬、なにが言いたいのかわからなかった。 いまの発言を思い返してハッとした。 「す、すいません! 変な意味じゃなくて!」 「……プフっ、はははは! おもしろいなぁ、優斗くんは」 「ほんとにすいません……穴に落ちてきます」 「いいよ〜っ、あはは。そうだな、俺はどっちでもいける」 「どっちも……」 「そうそう。雑食なんだよねーおれ」 優斗くんはおれに「ゲイなんですか?」と聞きたかったらしい。 にしても珍しい聞き方だ。 笑いがこみ上げてくる。 「ざしょくっ」 「変なこと陸に教えないでくださいね!?」 まだ22と聞いたがしっかり父親をしているようだ。 部屋に案内され、ありがたくお邪魔した。 窓のそばにはぬいぐるみを並べたラックがあり、そのどれもがフワフワとしている。 ぬいぐるみ大国だな、これは。 「女性も男性も付き合った経験があるんですね」 「うん、あるよ。でも女性は攻められたい子が多いだろ? おれもそうだから、男の方が好きだよ」 「……。結構はっきり言っちゃうんですね」 「優斗くんはそういうのない? そんなかわいい顔して攻めたい派とか?」 「っ……いや、亮雅さんが鬼なんでそれは」 「あいつ激しそー。ああ見えて好きな子泣かせたいタイプだよな」 そういうと頬を赤らめる優斗くんがもしも亮雅の恋人でなければ、おれは真っ先に狙っていたかもしれない。 こんな純粋でおもしろい子はそうそういない。 「矛盾しまくってるんですよ、あの男は。俺が泣くのにはかなり苦手意識があるみたいですけど」 「それ独占欲じゃん? 愛されてる証拠だよ」 ますます顔が赤い。 「優斗くん、いちいち女子みたいな反応するよな」 「う……やめてください、自分でも死にたいです」 「そこは生きて。ちょっとだけ羨ましいと思っちゃったかな」 「え? 肇さん……まさか女性に憧れが?」 「んなわけ。憧れてるならとっくに女装してるさ」 「俺に羨ましがる節ありました……?」 「キミみたいに純情でかわいい子だったら、おれも愛されてんのかなって」 「……」 本当に愛されたい誰かに。 「なーんて、毎晩色んな人間に愛されすぎて困ってますけどね〜」 「同居人」 「……」 「好きなんですか」 「……さぁ、どうだろう。あいつは亮雅と同じノンケだし、ただのお人好しなんだ」 おれはこの2年で、自分自身が相当な怖がりだという事実に気づいてしまった。 それも志野に対して過剰に怯えている。 大切にされればされるほど、別れが怖くなる。 「伝えてないんですか、その人には」 「おれが遊び人なのを知ってる。もうとっくに呆れられてるよ」 「そんなのっ……」 「ゆしゃぁぁん! 雪だまできた!」 雪だるまを作っていた陸が窓を開けてジャジャーンと自慢した。 さえぎってくれてよかった。 じゃなきゃおれは弱音を吐いてしまいそうだったから。 「お〜っ、すげえすげえ。思ってたより巨人だ」 「陸とおんなじ!」 「写真撮ってやろう。ほら並んで」 「やたぁ!」 志野が幸せなら耐えられると自負しておきながら、本当はその覚悟がない自分に耐えられない。 おれが志野の大切な存在でありたい。 そんな望み、抱いていいものか。 「いえーい!」 「いぇ〜い、陸の手ちっさいなぁっ」 「はしゃんおっきい! おとなっ」 「ほーら、優斗くんも一緒に撮るぞー」 「え、俺がですかっ」 「当たり前。思い出は大事だ」 本当に耐えられるんだろうか、志野の隣でこんなふうに笑う誰かの存在に。 おれは____

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