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第18話
「ある……ある! 覚悟ならっ」
「嘘つけ。夜遊びやめられねえのに覚悟なんてあんのかよ」
「おれはっ、志野が誰よりも好きだから!! 志野にキスされた日から、誰ともキスしてない! 絶対やだって!」
「__」
「……あっ」
もうめちゃくちゃだった。
好きだとずっと言えなかったのに。
まるで「おはよう」と言うくらい自然に口から出ていた。
高熱が顔を覆い、思わず両腕で隠す。
「ち、ちがう……いまのは、告白とかじゃなくて……っ」
「…………俺がお前をあの日助けたのは、気の毒な人間に手を差し伸べる善人だったからじゃない。ずっとお前がほしかった」
「は……?」
「自分売って生計立ててるような汚いことやってるやつが、ガキにとっちゃ恩人だ」
「……なんの、はなし」
「お前、子どもによく好かれるだろって話だよ」
志野がなにを言いたいのか、おれにはまったくわからなかった。
でも志野の嬉しげな笑顔を見た瞬間、どうしようもなく胸の奥が痛くなった。
____大切にされている。
初めてそう実感した。
「もうとっくに……あきれられてると思ってた」
「違げーよ、お前が望んでないことを無理やりやっても虚しいだけだろうが。どうでもいいやつならとっくに追い出してる。お前だから許してんだよ」
「……はい」
「そもそもホストが遊びの人間を体張って助けるわけないだろ。その時点でお前はなにもわかってない」
「ご、ごめんって。自分のことしか、考えてなかった」
「自覚あんじゃねえか」
「……こんなひどいやつなのに、それでも志野は好きなんだな。おれがこの3年あんたにしてきたことは、かなり地らっんむ」
志野はまるで獣だ。
それもおとぎ話に出てくるような王の獣。
重なった唇が熱くて、おれの脳を溶かす。
「ん、ふ……はっ」
「ずっと自分のものにしたかったやつが隣にいるだけで十分だったに決まってんだろ。だから俺は最初お前に手を出さなかった。壊したいくらい好きだなんて言ったら、怖がるしな」
「っ……そん、なに?」
「ああ。肇が引くほど俺はお前を愛してる、だからなんでも耐えてこれた。俺がなによりも許せなかったのは、肇の体に傷をつけていたやつらだ。そいつらだけは一生許さねえ」
「……」
知らなかった。
志野は優しいだけじゃなかった。
欲の塊みたいな人間で、ずっとおれを欲していた。
なぜだか、嬉しい。
ふつうなら怖いほどの好意だが、志野から向けられる好意はずっと嬉しい。
「……うれしい」
「は?」
「志野がおれのこと本気で好きなんて、うれしすぎる。死ぬほど……うれしい」
「大げさだっつの……俺のもんになったらお前、他のやつらとはヤらせないぞ? 手を出してくるやつがいたら骨折る」
「あはは、こっわ。ヤんないよ、おれずっと志野といたいもん。志野が好いてくれてるなら、もうしない」
「言ったな、ビッチ」
「うっさーい。はやく車出してくんない? 暑いんだよ」
「シートベルト」
「はいはい。よし、出発進行〜」
人を好きになることは怖かった。
だがそれは幻想で、志野は温かさを教えてくれる。
それを言葉にするのも、案外悪くない。
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