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第26話

「おれは、志野が幸せならそれでいい。でも志野にべつの恋人ができたら、やだ……」 時々わからなくなる。 肇の年齢は28で、容姿も女とまったく見分けがつかないタイプの美人ではない。 美人ではあるが、あの優斗という男に比べれば肇は誰が見ても男とわかる中性的な顔立ちをしている。 だが、中身はほとんど中学生と変わらない。 つぶらな瞳を向けられれば、人付き合いに慣れている俺でも困惑する。 これで営業成績がいいのだから、肇はいったい何者なんだ。 ぽんぽんと肇の背をなでて息をついた。 「飲みもんなにがいい。大抵のものはあるぞ」 「……サイダーがいい。みかんのやつ」 「ああ、待ってろ」 「ねえなんで志野はおれにそんな優しいの? 賄賂?」 「あのなぁ……お前は脳みそマシュマロでできてんのか」 「気になっただけだよ。おれのこと好きって言ってくれたけど、子ども助けただけだし」 「……」 こいつはもうダメだ。 思考が完全にイカれている。 そもそも、表彰をされるレベルのことをした自覚がない時点で肇は悪い大人に洗脳されている。 「なぁ肇、俺がもし逆の立場であのとき子どもを助けていたらお前は俺になんて思う?」 「すごいなって思うよ。みんな怖がってできないだろうし、かっこいい」 「そうだ。肇はそれくらいすごいことをしたんだ。わかったな?」 「…………。そっか! わかったっ」 絶対わかってないな、こいつ。 「まぁいい……肇に自覚がなくても、あの子どもからすれば勇者なんだよ」 「じゃあ今日からおれは勇者になる」 「それはやめろ。もうこれ以上は怪我させねえぞ」 「志野がそういうならやらないよ」 「……はぁ。ま、肇にしては上出来だな。えらいぞ」 「…………ねえ志野、キス」 「っ」 肇を誰にも渡したくないという独占欲は、留まることを知らない。 いつもは子どものような無邪気さを見せる肇が、行為を求めると180度変わる。 妖艶な視線に色気をまとった口許が男の欲を煽った。 後頭部を押さえ、肇の唇を強引に奪う。 好きだ。 顔も声も熱も身体も、すべてを奪ってしまいたい。 「……ん」 肇の漏らす吐息があまりに艶やかで、股間が熱くなる。 「肇……」 「ぁっ……お尻、やだ」 「お前は俺だけのものだ。他の男にはやらねえ」 「……泣き、そ」 「その顔も見たい」 「っ、ん」 守ると決めたあの日から、俺の一番は肇だった。 二度と他の男に触らせはしない。 肇がそれを許した。 もう、迷いはどこにもない。

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