25 / 36
第25話
「志野、ねえ志野ー。まだ仕事?」
デスクに向かい、撮影した写真をパソコンで編集していく作業は思いのほか時間がかかる。
ネットでモデル活動をしている俺は写真の選択や編集を自身で行いファンへ発信するため、再確認できる人間は撮影したカメラマンのみだ。
一輝がアシスタントとして手伝ってくれることもあるが、主には自給自足のような毎日を送っている。
それゆえに、肇が休みの日には退屈をさせてしまうものだ。
「まだ編集段階だ」
「……そう」
付き合う前はもっと我が強くわがままなのが肇の性格だと思っていた。
だが、それはちがう。
肇はむしろ、悲しいやツラいという気持ちを自身のなかだけで解決しようとする。
要するに言わないのだ。
寂しいから遊んでほしいと、肇の口から聞くことがない。
そう思っているのは目に見えているのに。
「肇、クローゼットに買った服をかけてる。着てみろよ」
「うん」
経験上、我慢することに慣れているのだろう。
自分より他人を優先する。
どれだけ苦しくても、肇はいつも笑う。
俺はそれが嫌いだった。
初めて会った日から。
今日もまた、肇の嫌いなところが出ている。
「ふんふーん」
「肇」
「なにー?」
「今日は1日中仕事で、相手できない」
「……」
「自分の好きなことをやっていてくれ。昼には出るから」
心が痛い。
返しは、なんとなく察しがつく。
「…………そっか、うん。わかったよ。じゃあケーキ屋さんにドーナツ食べにいこーっと」
ほらこれだ。
自分の気持ちは完全に無視。
まるで自分自身はただのおまけと言わんばかり。
どう思ったか、なんて俺に言いもしない。
それが妙に頭にくる。
「お前、まじで自分ねえよな」
「え?」
「どうしたいのかなにも言わねえし、俺に合わせてばっかじゃねえか」
「……でも、仕事だろ? それなら仕方な」
「そういう問題じゃねえよっ」
「っ」
あぁ、クソ。
肇に当たっても意味がないだろ。
「チッ……もういい」
「待って!」
部屋を出ていこうとした俺の手を、肇がつかんだ。
その手がひどく震えていて後悔した。
バカか、俺は。
なによりも肇が恐れていることを無理やりさせようとしている。
「…………っ、行かないで、ほしい」
「……」
「一緒にいたい……志野ぉ」
「っ」
俺は振り返り、肇を強く抱きしめた。
俺にとっては簡単でも肇にとってはその一言さえ困難を極める。
わかっていたが、言わせてしまった。
それと同時に、愛おしさが溢れて止まらない。
「言えんじゃねえか」
「ぐすっ……ひとりは、やだよ」
「…………悪い、少しムカついて嘘をついた。仕事で出る予定はない」
「ひど」
「泣くなよ。悪かったって」
「がんばって言ったのに……」
「……ああ。それが聞きたかった。言っただろ? 俺には遠慮しなくていいって」
「うん……」
愛おしい。
この男を幸せにできれば、それほど幸せなことはない。
ともだちにシェアしよう!