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第24話

ああ、わかった。 肇に惹かれる人間が多いのは当たり前だ。 どれだけ表面を取り繕っても隠せはしない魅力が、ぼろぼろと出てくる。 それに気づいていないのは、肇だけだ。 「くそ……」 「おれ、幸せになっちゃダメだと思ってたからずっと。志野がおれをここに連れてくるときもさ、また不幸が始まるって思ってた」 「……」 「誰かが言ってたんだ。子どもの頃に不幸だったやつは、幸せにはなれないって。一生、不幸じゃないとダメって」 「なんでだよ」 「そういうふうに世の中回ってるって言ってた。おれは人並みの幸せとか知らないから、美味いご飯食べられるだけでも幸せで怖かったよ」 「……」 意味が違う。 不幸を経験した子どもが一生不幸になるのではなく、自分を不幸だと思い込めば不幸を引き寄せるというだけの話だ。 肇が幸せになりたいと望めば、いくらでも未来は変えられる。 俺がその支えになりたい。 「スーツとか服買ってもらえるのも幸せだし、好きだって言われたのも幸せだし、生きててくれなんて思ってもらえたのも、幸せだから怖かった」 「いまは平気なのか」 「全然。いまも怖いし、幸せになればなるほど後ろから刺されそうだよ。でも……幸せにはなりたい、かな。亮雅たちが楽しそうに笑ってるの見てたら、家族が羨ましくなった」 「……そうか」 正直、驚いた。 肇が自分からそんなことを話すとは思ってもいなかった。 まるで人を信じていないこの男が話してくれたということは、俺を少しでも信じたいと思ったからだろうか。 「おれ……しないよ、志野と出会ったときにやってたようなこと。志野がそれで悲しいなら、絶対しない」 「……ああ」 なにを見てきたのかは知らないが、亮雅という男の家庭は肇になにか大きな影響を与えたようだ。 家族、か。 「ほしいもんがあるならいくらでも買ってやるし、気を遣う必要もない。同居とは違うんだから、俺には遠慮すんなよ」 「リムジンほしいって言い出したらどうする?」 「お前免許持ってんの?」 「まさか、そんなん俺の世界に必要なかったしぃ?」 「なんでドヤ顔なんだよ。凛さんとこにいる限りは保険証で身分証明にはなるが……まぁいい、これから色々手続きしていくぞ」 「うわ……ムリ、考えるだけでめんどくさい」 「アホ、生きていくには必要なんだよ。いつまでも家がないじゃさすがにヤバいだろ」 恐ろしいほどに世間知らずな肇だが、それさえかわいく思えてしまう俺も恐ろしい人間だ。

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