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**  それは──小学校に上がる少し前のこと。  オレは、今よりもずっと色素が薄く、到底日本人の子どもには見えなかった  確かにオレの両親は共にヨーロッパの国の血が混じっているので、オレも生粋の日本人ではない。しかし、両親兄姉は髪も瞳ももっとずっと黒に近い。大きくなるにつれ多少濃くはなったが、オレだけがライトブラウンの髪に、ブルーグレイの瞳を持つ。  四歳になる年、聖愛学園の幼稚舎に入ったが、余りにも容姿がまわりから浮いていた為、子どもたちからもその親からも、変に騒がれていた。  当時は大人の言っていることはよく解らなかったが、親の言っていることはその子どもにも反映する。  詩雨くんは日本人じゃない、だとか、本当の親子じゃない、だとか面と向かって言われていたのだ。  今では笑い飛ばせることでも、子どものオレはかなり傷ついていた。もともとおとなしい性格に拍車がかかり、常に両親や兄弟の後ろに隠れるようになった。  幼稚舎にはほぼ通えず、自宅で過ごすことが多かった。五歳になる歳から音楽院にも行き始めたが、同年代の子どもは余りおらず、その少ない人数の子どもたちですら、結局は同じようなものだった。  オレには友だちの一人もいなかった。 **  この日、都内にある冬馬の母親が営む呉服屋に母と訪れた。  のちにオレの母親から聞いた話だ。  冬馬の母親は京都の老舗の呉服屋の娘だ。冬馬の父親とは幼い頃に親たちが決めた許嫁同士で、大学部進学と共に学生結婚した。(ちゃんと恋愛したのちに結婚したのよ!と母は力説)  もともと冬馬の父親とオレの両親は、聖愛の初等部からの友人同士だ。冬馬の母親は結婚準備の為、高等部の時に親元を離れ聖愛に編入し、そこに加わった。聖愛を卒業した後も時々連絡を取って集まっているという仲の良さだ。  しかし、オレがこの呉服屋に来たのはこの日が初めてだった。 「こんにちは、しうちゃん。大きくならはったなぁ。ややこの時におうたことあるんえ」  優しい色合いの着物を着た小柄な女性は、しゃがみこんで視線を合わせると、そう柔らかく話しかけてきた。オレはその花のような微笑みに安心して、母の影から出て挨拶をしようとした。  が、すぐ一歩下がり母のスカートをぎゅっと握りしめた。その女性の後ろから、ひとりの少年が出てきたからだ。

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