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 オレのように人見知りをして、母親の影に隠れていたというわけではなさそうだ。子どものくせに眉のきりりとした、意思の強そうな瞳をしている。 「うちとこの息子ですねん。冬馬ゆぃます。しうちゃんとおんなし歳で、四月に聖愛の初等部に入学するんえ。よろしゅうにな」  息子の両肩に手を置いて紹介した。 ( 同じ歳? )  オレは細いが背だけは平均より上だ。しかし、同じ歳だというこの少年は、更にそれを上回っている。しかも、ひょろひょろとした印象のオレとは違って、スポーツで鍛えているような身体つきをしている。  オレは上目遣いに彼を見つめたまま黙りこんでいた。 すると。 「お前、日本語話せないんか」  片眉を上げ不機嫌そうに言葉を吐く。  その場が凍りついた。  いち早く反応したのは冬馬の母親で、 「冬馬、そんなんゆぅたらあかん」  と、さっきまでとは打って変わった厳しい口調で嗜める。  そして、またオレの前にしゃがみこみ、両腕を優しく撫でた。 「しうちゃん、堪忍やで」  冬馬の代わりに母親が謝ってくれたものの、もう後の祭りで、オレの目許にはぷっくら水滴が溜まり、あっという間に溢れて出た。  ── とにかく、冬馬の第一印象は最悪だった。  恐らく入学を前にして、幼稚舎にもほとんど通えず、友だちの一人もいないオレを心配した母が、冬馬の母親に相談したのだろう。そして、四月から同じ聖愛に入学する冬馬と引き合わせた ── が、見事に失敗したわけだ。  ぽろぽろ涙を流し続けるオレを見る冬馬の顔は、ふんっと鼻を鳴らしそうなくらい高慢な感じがした。 「詩雨、もう泣くのやめなさい。あなた、お──」  母が言いかけたところで、冬馬が自分の母親を押し退け、オレの前に立った。  そして、ふっ……と微笑む。 ふんっ、ではなく、ふっ……だ。とてつもなく優しそうに。  冬馬の指先が伸びてきて、オレの涙を拭う。 「悪かったな。もう、泣かんで」 「?!!!!!!!!」  オレはめちゃくちゃびっくりした。びっくりし過ぎて涙まで止まってしまう。 ( えっ、なに、今の。紳士的っていうの、それとも王子さま?あんた、いったいいくつなの )  しかも、母親の言葉が移っているのか微妙にイントネーションが違う。 ( えっ、そこ、萌えポイント?女子からしたら、かわいいーっとかって言うかんじ?でも、ボク女子じゃないし )  オレは、同じ男なのに一瞬感じてしまったドキドキを、脳内を物凄い勢いで流れる言葉と共に押し流した。

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