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 自分も聖愛のお坊ちゃんのくせに随分な言いようだ。 「俺たちの秘密基地にしよう」  他に誰もいないのに、内緒話をするかのようにオレの耳許に口を寄せる。その眼はきらきらとして見えた。 ( ガキ大将みたいな、顔だな )  そんな冬馬の顔を見て、オレもわくわくしてきた。 「いいね!そうしよう。今日からここは、ボクたちの秘密基地だ」  パチンとハイタッチをして、オレたちは笑いあった。  しかし。オレはふと気がついた。 「ねえ」  不安げに声が細くなる。冬馬もオレの視線の先を振り返る。  空間の奥はまた同じように高い木が植わったいたが、よく見ると、その間に錆びた有刺鉄線が張り巡らされている朽ちかけた木の柵があった。  オレたちは顔を見合わせた。何も言わないのにふたり同時に立ち上がり、その柵に近寄る。 「なんか、不気味な感じがするな」 「うん……」  確かに、森のなかに朽ちた柵と有刺鉄線はなんだか妙な雰囲気があって、胸にじわっと不安が広がる。  鉄線には触れないように気をつけながら覗き込むと、その先は今登ってきた坂とは比べものにならないくらいの急勾配で、落ちたらかなり危険だと感じるくらいだ。  少し低めの木が、“森”と違って一定の隙間を開けて整然と植えられいる。下の方にいくと今度はぼこぼことした石の壁になっていて、その外側に見慣れた聖愛の白い煉瓦調の塀があった。 「ここは、聖愛の果て、だな」  冬馬が楽しそうに笑うので、さっき不気味に感じたことも、すべて消し飛んだ。 「うん」  『聖愛の果て』── 子どものオレたちには、それが『この世の果て』くらいに凄いことのように思え、ますますわくわくを募らせる。ここは“秘密基地”にするのに最高の場所に思えたのだ。  ── それから、何年もそこはふたりだけの、秘密基地になった。そう、秋穂が冬馬の前に現れるまでは。

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