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今日から四年生になる。
冬馬と過ごしたこの三年間で、オレは少しずつ変わっていった。相変わらず周りの眼は煩いが、それが気にならないくらいの強さがオレの内に培われた。
背は更に伸び、ひょろひょろと細かった身体にも多少の筋肉もついた。日焼けしにくい体質で色は白いままだったが、金色に近かった髪はだんだんとブラウンに近づいていく。
成長していくオレを、しかし、冬馬は遥かに上回る。もう中学生と間違われる程だし、周りと何処か違う方向を見る瞳は、外見以上に大人びた雰囲気が漂う。
そんな彼を見ると、どきんっと心臓が波打つ時がある。
これは、いったい、何なのか……。
オレは支度を整えると、机の引き出しを開けた。
長方形の綺麗な箱を取り出す。開けると中には、両端に房のある紅い組紐が入っている。
女のコと間違えて冬馬が髪に結んだその紐を、オレは捨てることも返すことも誰かにあげることもできなかった。こうして大事に取っておいて、時々箱を開けては眺めていた。
最近は、幼い頃のプロポーズの言葉を思いだし、ひどく甘酸っぱい気持ちになる。
オレはそれを手に取ると、あの日以来初めて自分でつけてみることにした。ひとりで結ぶのはなかなか難しく、多少不格好になってしまったろうか。鏡に映してみたが、真後ろはよく見えない。
( まぁ、いいか )
オレは諦めてそのまま登校した。
( 冬馬は、覚えているかなぁ…… )
春の陽射しを浴びて金色に煌めく髪を紅い紐で結び、正門から校舎に向かって歩く。何もしなくても何故か注目を集めてしまうが、今日はいつも以上に周りが騒めく。
「なにぃあれぇ、かぁわいー」
高等部のお姉さまたちからは、きゃっきゃっと声があがる。初等部の男子からは完全に引かれているようだが、そんなことは気にしない。
後ろから誰かが近づく気配。ぽんっと軽く後頭部をはたかれる。
「おはよう。今日はずいぶん可愛い髪型だな」
冬馬だ。調度登校して来たところらしい。
「冬馬、おはよう」
「でも ── ちょっと、こっち」
そう言ってオレの腕を軽く掴んだ。脇のベンチに連れて行かれ、そこにオレを座らせた。
「自分でやった?こういうとこは不器用だな」
するっと紐を解いて、手櫛で髪を梳き始める。
( 気持ちいい…… )
オレの心臓はまた、どくどくと音を立てている。
初めて会った日のように冬馬はオレの耳の横の髪を掬い、あっという間にその紅い紐で結ってしまう。たぶん綺麗に整えてくれただろう。冬馬はけっこう器用だから。
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