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ずっと遠目でしか見ていなかった少年を初めて間近で見た。
冬馬はもちろんのことオレもかなり標準を超えているが、彼は同学年のなかでもずいぶんと小柄なようだ。
背も低いが身体も細そうで、制服が大分大きく見える。顔は整っているが、やや頬がこけていて何処か病的な白さだ。
繊細。儚い。そんな言葉が似合う。
『守ってやんなきゃと思った』
オレは初等部の入学式の時に、冬馬が言ったことを思い出した。
この少年は正に“守ってやりたい”と思わせる人間なんだ。
オレは冬馬の隣に居たいが為に、無理矢理自分を変えた。しかし彼は素のままで、今冬馬とぴたりと寄り添っている。冬馬から“守られる”存在なんだ。
オレが ── あのままだったら……。
オレが間違っていたのかも知れない。
男同士だから受け入れて貰える筈がない ── そう思っていた。
そうじゃないんだ。
オレはただ選ばれなかっただけ。男とか女とか関係なかったんだ。
オレがあのままだったら、そして、冬馬が彼と出逢う前に思いを告げていたら ── “今”は違っていたのだろうか。
オレの根は実はあの頃と変わっていない。でも今さらこの数年の自分を崩すこともできない。
冬馬がやっと『石蕗秋穂』を紹介した。その名前もそれ以外の冬馬が言わないことも知っているが、初めて知ったフリをした。
「よろしくね、秋穂」
オレはへらっと笑って挨拶をした。
**
六月最後の日、オレは十三歳になった。
オレと冬馬はお互いに誕生日を祝っていた。冬馬の誕生日はオレより後で一月だ。
出会って二、三年はお互いの家を行き来し、家族を交えてバースデーパーティーをした。だんだんと両家の日程が合わなくなると、オレたちはふたりだけでささやかに祝っていた。
ある時はオレたちの秘密基地で、ある時はカンナの練習室で。電話だけの時もある。
プレゼントがなくても、ただ誕生日を忘れないで言ってくれる「おめでとう」の言葉。それだけでオレには何よりも嬉しかった。
もしかしたら、オレだけが特別に嬉しく思っていただけなのかも ── 。
今年は ── 忘れられてしまうかも知れない。
そう、覚悟していた。しかし、昨日メールが届いた。
『明日、誕生日だろ。放課後用事がなかったら、俺のマンションに来いよ』
( 忘れられていなかった……っ )
胸がぽっと温かくなる。オレは嬉しく堪らなくなった。取り立てて急ぎの用事もなかったが、あったとしてもスルーだ。
**
冬馬は中等部進級と同時に、聖愛の近くの高級住宅街にある七階建てのマンションで独り暮らしを始めた。各階に二戸しかなく、七階は二戸とも橘家が所有している。そのうちの一戸に冬馬は住んでいる。
独り暮らしといっても、数日に一度橘家の家政婦さんが来て掃除や買い物をしてくれている。冬馬が食事を作れるのは作夏に別荘で立証済みだ。
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