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 夕焼けに染まる、輝くような笑顔。さらりとした感のある髪は綺麗な緋色。元が黒髪ではないからだろう。  その美しい人が手を振っているのが、一瞬俺になのかと思い、ドキンと心臓が鳴った。でも、そうではないと、直ぐに解った。  “彼”の視線は、もう少し下にあった。  生け垣のところに男が立っていた。聖愛の中等部の制服を着た、背の高い男。その男は“彼”に何か声をかけ、軽く手を振り、北門の方へと歩いていった。  “彼”はまだ、その男を見つめている。  俺は木の陰に隠れ、そんなふたりを見ていた。  “彼”を、俺は知っている。  陽光を浴びて金色に煌めく、ライトブラウンの髪。色白で綺麗な顔立ち。  間近では見たことはないが、眼の色も黒ではないようだ。カンナの中等部の制服を着て、いつ見ても紅色の紐で髪を結っている。  そういえば、いつだったか、俺の近くにいた中等部の女子が噂をしていた。 ( 確か、名前は ── 駄目だ、思い出せない )  とにかくこの聖愛学園では、かなり浮いた存在だった。俺自身もどちらかといえば、そういう存在なのかも知れないが、方向性が全く違うので興味も持てなかった。 ( あの人が、あのピアノを…… )  派手な雰囲気の“その人”が、あんな音色を奏でるとは想像もつかなかった。でも、今窓辺にいる“あの人”があのピアノを弾いているのは、なんとなく納得がいく。  それ程、印象が違って見えた。 ( あの男も知っている )  さっき横顔が見えた。 ( そうだ……あそこにいた…… )  森の中で迷って出た、ぽっかりとあいた空間。そこだけに太陽が降り注ぎ、椅子のように木の切り株が幾つかある。誰もいない空間。  そこを見た瞬間、まるで秘密の場所だな、と思った。しばらく、そこでぼんやりとしていた。  俺はここを気に入り、誰もいないこの場所を“俺の場所”と決めた。  しかし、偶然来たこの場所に、その後しばらくは辿り着くことができなかった。何度か探検しているうちに、やっとその場所に出くわす。  でも、その時には人がいた ── あの男と、もうひとり。  “彼”ではない。  場所を把握した俺は、何度もそこに行った。けれど、いつ行っても大概そのふたりはそこにいて、傍には行ってはいけないような雰囲気を醸し出していた。  ふたりがいなくても、いつ来るかと思うと、やっぱりここにいてはいけない。彼らの“聖域”のような気がした。  しかたなく俺は、少し離れた別のところを“俺の場所”と決めた。

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