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カンナ音楽院から聖愛学園に籍を移し、家を出て寮に入ったという彼を、見かけることはあったが、意識して眼に入れないようにしていた。彼が良くいた森の中にも、もう足を踏み入れていない。
俺は次第に彼のことを忘れていった ── いや、それは嘘だ。忘れようと努力したのだ。
そうしながら、一年を過ごした。
俺は聖愛の初等部で四年生を終えると、公立の小学校へと転校した。母を説得するのは大変だったが、父の助言もあり、最後には承諾してくれた。
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俺は、何もかも忘れることにした。
あの人の綺麗な顔も。あの人の音楽も。
自分の言った言葉も。哀しげな微笑みも。
あの人を好きだった、自分も。
すべて、すべて、封印した。
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公立の小学校は、聖愛よりも俺には合っていた。こんな無愛想な俺にも、初めて友だちができ、やっとごく普通の小学校生活というものを味わった。
中学校では三年間バスケット部に所属した。初等部の頃は平均より小さめだった俺は、中学に入ってからの伸びが大きく、中三で百八十センチ近くまで成長した。
その頃、大学生でありながら社長をしていた夏生に誘われ、なんとなく彼のモデル事務所に籍を置き、なんとなく時々代打の仕事を受けていた。
高校に進学してからは部活にも入らなかったが、筋トレだけは怠らなかった。何にも熱をあげることもなく、ただ平坦な毎日を送っていた。
再び、あの人 ── カンナシウに出逢うまでは。
封印したいという強い想いは、本当に彼のことを忘れさせた。
だから、彼のことはすぐには思い出せなかった。
そして、彼も、一度会ったあの生意気なガキを覚えてはいなかったのだろう。
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沖縄での撮影は無事終了した。
帰路シウさんは始終ご機嫌で、俺だけが気まずい気持ちを抱えていた。昨夜彼のことを想いながら仕でかしたことが申し訳なさすぎて、まともに眼を合わせることもできなかった。
空港まで迎えに来た夏生の誘いをシウさんは断り、俺たちはそこで別れた。
俺たちの関係はそこまでだった。その後シウさんからは何の連絡もなかった。卒業に向けていろいろと忙しいのだろうか。
俺のことはもう頭にないのかも知れないと思うと、酷く切なくなった。
もう会うこともできないかも知れない。そう、このままでは。
再会し全てを思い出した彼のことを、もう忘れることはできなかった。
会いたい。
空港で別れたあの日から、そうずっと思っていた。
どうしたら、シウさんともっと関われるのか。
そう、考えていた。
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彼は無事大学を卒業した。六月の初め、『SHIU 』の個展がとあるギャラリーでひらかれる。夏生を通し、俺にも招待状が送られてきた。
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