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『SHIU 』の個展を訪れた後、俺は前向きにモデルの仕事について考えることにした。今まで以上に事務所にも足を運び、真面目にレッスンにも取り組んだ。
その変化に夏生は驚きもしていたが、それ以上に喜んでくれている。
「代打で受けたところから、幾つかハルにオファーがきてたんだよね。今まで断ってたんだけど」
誰かの代わりではない、俺への仕事が少しずつ入るようになった。仕事は夏生が良いと思われるものを選んでいるが、実際にはそれ以上のオファーがきているようだ。
俺のこの心変わりの理由を、恐らく夏生は気がついているのだろう。けれど、彼はそのことについては何も言わなかった。
俺があの時、あの写真を見て固めた決意。
モデルとして、『SHIU 』に認められること。この先も彼に関わるには、それしかないと思った。
『SHIU 』は人物を中心には撮影をしない。希に知人に頼まれ撮影することもあるが、その時はその名を出さない。
でも俺は、『SHIU 』の名で、俺自身を撮って貰いたい。俺自身を選んで貰いたいんだ。
その為には、『SHIU 』の信念を覆す程のモデルに成長しなければならない。
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そして ── 数年が経ち、大学四年の春。
夏生に改まって社長室に呼ばれ、来年卒業の頃に向けて、写真集発刊のプロジェクトを持ちかけられた。
とりあえずは、俺単体で写真集を出しても採算が取れるくらいには、モデルとしての価値は上がったと思っていいのだろうか。
( ──まだ、早いとは、思う。でも、これは、チャンスかも )
その話を聞いた時、ふっと頭に浮かんだこと。
( もし答えが、否、でも今後の布石になるかも知れない )
「じゃあ、SHIU に撮って貰いたい」
「え?」
夏生は持っていた書類を投げそうな勢いで驚く。
「SHIU は、人物中心の写真は撮らないの、知ってるだろ」
「知ってる。前にも聞いた。でも、親しい人には頼まれたら、撮るって ── 夏生、いや社長は、SHIU とはとーっても親しいですよね?」
どうしても承諾して欲しいので、少しだけ丁寧に言い、
「お願いします」
と、頭を下げた。
彼もまた、『社長の顔』で苦い表情を作る。
「そう、だけどね。でも、その場合は、SHIU の名は出さない。撮影者の名前がないのは、正直困る」
テーブルの上に置いた書類をトントンと指で叩いている。その下に、ファッション界で有名なカメラマンの名が見える。
夏生は、俺の写真集を売り出す為に、カメラマンのネームバリューを使いたいのだろう。
「SHIU の名で、撮って貰いたい」
俺は重ねて言った。
承諾だけでいいんだ。話だけでも、あの人に通して貰えれば。実際には、不可能でも構わない。
「じゃなきゃ、この話はなかったことで」
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