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少しだけの丁寧さは、もう既にない。社長にこんなに強気に出てれば、普通だったら干されるかも知れない。そこは、やはり従兄弟だという甘えが出てしまう。
「ん~~。オファーするだけだからね。受ける受けないは、詩雨が決めることだから」
渋い顔をしながらも、折れた。彼は昔から俺には甘かった。しかし、その後に一言、ボソッと付け加えた。
「……いつか、言うと思ったけど、早過ぎ」
(やっぱ、バレてたか)
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三週間程が経ち、社長から連絡を貰った。社長室に入ると、そこにはシウさんが椅子に腰かけ足を組んでいた。再会した日を思い出す。
十日経った辺りで、社長はやっぱり『SHIU 』にはオファーしなかったのではないかと思い始めていた。連絡を貰った時には用件は言わなかったが、多分そのことについてだろうとは思った。
俺が思った通りか、それとも既に断られたか。
社長室のドアを前にして、俺はかなり緊張していた。初めてモデルとして、撮影に望んだ時ですら、こんなに緊張したりはしなかったのに。
「ハル、ノックしてから、入るっ」
緊張し過ぎて、ノックもせずに入ってしまった。モデルとしてちゃんとやっていこうと決めてから、気をつけていたのに。しかも、物凄い勢いで開けてしまった。
「あ、ごめっ」
謝ろうとする俺の耳に、くすっくすっと、笑い声が聞こえた。
「ハル、久しぶり」
シウさん本人がいた。
更に緊張が高まる。
前に会ったのは、いつだろう。
この数年の間に顔を合わせたのは、両手の指程もなかったと思う。社長室で偶然会ったり、事務所の廊下ですれ違ったり。時間にしたって、数秒から、長くて数分だ。
「……お久しぶりです」
声が掠れてしまう。
「オレに、写真集撮って貰いたいんだって?」
彼はいきなり話を切り出した。もう既に夏生から全て聞いていたのだろう。
「でも、オレは人物は基本撮らないし、撮ったとしても『SHIU 』 の名を出さない」
夏生に言われたことと同じことを繰り返される。
流石に本人に言われれば怯むが、それでも、自分の意思は伝えたかった。
「知ってます。でも、それでもっ!シウさんに撮って貰いたい。『SHIU 』の名で」
きっと、断られるだろうと思った。それでも、良かったんだ。
ただ、伝えたかった。
シウさんは椅子から立ち上がり、俺の周りをぐるっと回った。それから、俺の真正面に立ち、眼の奥を覗き込むように、じっと見つめる。
高一の秋。初めて会った、同時に再会していた、あの時と同じように。
「いいよ、引き受けた」
そう、はっきりと答えた。
「えっ?」
俺と夏生は同時に、そんな間抜けな声を上げた。眼を丸くしている夏生の顔を見て、俺も同じ顔をしているんだろうと思った。
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