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「なんだ、二人ともその顔は。断られると思ったのか」 「うん、そう、だな」  まだ呆然とした様子で、夏生が答える。俺も、こくこくと、人形みたいにぎこちなく首を縦に振った。 「なんだ、それ。断られるの前提で、オファーしたのか」  心底可笑しそうに、シウさんが笑う。 「でも、オレに頼むなんて、モノ好きだな。人物の写真なら、他にいいの撮るヤツいっぱいいるだろ」  まだ、間近にあるシウさんの顔。久しぶりに見る、その華やかな笑顔に、俺は見とれていた。 ( 綺麗だ……いや……可愛い…… ) 「あ、オレ、良いこと思いついた」  そう言った彼の言葉も耳を通り抜ける。 「ハルを橘オーナーに紹介する」  それも、全部通り抜け、 「え、橘冬馬にか!?」  という夏生の言葉で、やっと我に返った。 「ハル、聞いてる?」 「…………」  ぼおっと突っ立っていた俺の眼の前を、白い綺麗な手が行き来する。同じ男とは思えない、繊細な指先。それに、また見とれる。 「あ、聞いてなかったね」 「え……と?」  くすくすっと、また笑い、それから真顔になる。 「今、Citrus は、秋にある“タチバナ”の春夏コレクションの制作を始めている。そのモデルに、ハルをどうかと思って。あ、“タチバナ”は知ってるよね?服飾系の大企業」  前半は夏生、後半は俺に顔を向けて話す。 「そのブランドの“Citrus ”は知ってる?橘冬馬は、そこのオーナー」 ( たしか……Citrusって…… )  俺はぼんやりと思い浮かべた。レディースメインのブランドで、メンズもあるけど俺には合わない感じじゃなかったか。 「ハルに、Citrus は合わないんじゃないか?」  今まさに俺が思っていたことを、夏生がそのまま代弁した。 「まぁ、確かに。でも、デザインに合ったモデルを探すだろうけど、モデルに合ったデザインを考えることもあるだろ?オレのヨミが当たってたら……」  少し考える仕草をして。 「確実とは言えないけど、会うくらいならいいだろ?もし、上手く Citrus のモデルに起用されれば、ハルにも箔がつくと思うんだけど」 「ん~~、どうする?」  社長が決めかねて、俺に投げた。 「え……っと。シウさんが、そう言うなら……会うだけでも?」  俺も決めかね、かなり小声、しかも疑問系で答え、最終的には、 「うん、じゃあ、そういうことで!」  と、にこにこ笑っているシウさんが決定した。 ( まぁ……シウさんが笑ってくれるなら、いいか…… )  いろいろ不安はあるが、会うくらいなら問題ないか。シウさんがそれで納得してくれるなら。  そう、思うことにした。  

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