63 / 123
─ 19
「なんだ、二人ともその顔は。断られると思ったのか」
「うん、そう、だな」
まだ呆然とした様子で、夏生が答える。俺も、こくこくと、人形みたいにぎこちなく首を縦に振った。
「なんだ、それ。断られるの前提で、オファーしたのか」
心底可笑しそうに、シウさんが笑う。
「でも、オレに頼むなんて、モノ好きだな。人物の写真なら、他にいいの撮るヤツいっぱいいるだろ」
まだ、間近にあるシウさんの顔。久しぶりに見る、その華やかな笑顔に、俺は見とれていた。
( 綺麗だ……いや……可愛い…… )
「あ、オレ、良いこと思いついた」
そう言った彼の言葉も耳を通り抜ける。
「ハルを橘オーナーに紹介する」
それも、全部通り抜け、
「え、橘冬馬にか!?」
という夏生の言葉で、やっと我に返った。
「ハル、聞いてる?」
「…………」
ぼおっと突っ立っていた俺の眼の前を、白い綺麗な手が行き来する。同じ男とは思えない、繊細な指先。それに、また見とれる。
「あ、聞いてなかったね」
「え……と?」
くすくすっと、また笑い、それから真顔になる。
「今、Citrus は、秋にある“タチバナ”の春夏コレクションの制作を始めている。そのモデルに、ハルをどうかと思って。あ、“タチバナ”は知ってるよね?服飾系の大企業」
前半は夏生、後半は俺に顔を向けて話す。
「そのブランドの“Citrus ”は知ってる?橘冬馬は、そこのオーナー」
( たしか……Citrusって…… )
俺はぼんやりと思い浮かべた。レディースメインのブランドで、メンズもあるけど俺には合わない感じじゃなかったか。
「ハルに、Citrus は合わないんじゃないか?」
今まさに俺が思っていたことを、夏生がそのまま代弁した。
「まぁ、確かに。でも、デザインに合ったモデルを探すだろうけど、モデルに合ったデザインを考えることもあるだろ?オレのヨミが当たってたら……」
少し考える仕草をして。
「確実とは言えないけど、会うくらいならいいだろ?もし、上手く Citrus のモデルに起用されれば、ハルにも箔がつくと思うんだけど」
「ん~~、どうする?」
社長が決めかねて、俺に投げた。
「え……っと。シウさんが、そう言うなら……会うだけでも?」
俺も決めかね、かなり小声、しかも疑問系で答え、最終的には、
「うん、じゃあ、そういうことで!」
と、にこにこ笑っているシウさんが決定した。
( まぁ……シウさんが笑ってくれるなら、いいか…… )
いろいろ不安はあるが、会うくらいなら問題ないか。シウさんがそれで納得してくれるなら。
そう、思うことにした。
ともだちにシェアしよう!