110 / 123

─ 4

 項に濡れた感触。ざわっと鳥肌。  髪の毛を切ったオレを気に入ったのか、それからたまにこうやって、項に軽くキスをしてくる。 ( え?引いたんじゃなかったの? ) 「はあ。何言ってくれちゃってるの。俺がシウさん以外の誰とつき合うっていうんだよ。シウさんのこと好きだって気づいてから、誰の相手もしてねぇよ ── シウさんはどうなの?」  やや切れ気味に捲し立てられ、気圧される。自然、声が小さくなる。 「オレ?オレみたいなおっさん、モテるわけないよ」  から笑い。 「はあ。無自覚か。マジ勘弁」  また大きな溜息。 「どこ歩いても振り返られるし、撮影の時だって、みんなシウさんどう誘おうか、考えてる」 「まさか」  若い頃ならまだしも、今のオレなんて。  そう考えていると。  ちゅっちゅっ。また、項にキス。 「まあ、シウさんが気づいてないなら、俺以外なんてなさそうで、安心」  唇が項から耳の辺りへ移動してきたのを感じる。 「もう、いいよね。俺、我慢しなくて」  今までよりもずっと、甘さを含んだ声を、耳の中に注ぎ込まれる。 「我慢……してた?」 「当たり前だよ。シウさんは、俺が二年近くも何もしなかったのは、シウさんに興味がなくなったからだと思ってるだろ」  耳を舐めたり噛んだりしながら話す声は、くぐもっていて、そして、甘い。  彼が口を動かす度に、じわりと背筋に何かが這いのぼる。覚えのある感触。二年前の。 「欲しくてしようがなかった貴方(ひと)が隣で無防備に寝てたりしたら、堪んないだろ。ちょっと触ったりキスしちゃったりしてさ。その後は、トイレでさー……」  見なくてもわかる。遙人、ちょっと悪い顔してる。 ( そんなこと……してた……のか…… ) 「びっくりした?シウさん気づかないし、もう何度したことか」  アハッと自嘲気味に笑う。  想像して、顔が熱くなる。  その問いに答えられず黙っていると、再び項を責められる。  髪を切ってこうされるようになって気がついた。オレは相当項が弱い。これは冬馬も知らないことだと思って、遙人が優越感に浸っていたことを、オレはなんとなく感じていた。  やはりまだ、心の何処かで冬馬のことは引っかかっていたのだろうか。 ちゅっちゅっと音を立ててキスをしたかと思うと、今度はべろっと舐められる。  熱い舌の感触。そして、軽い痛み。  噛まれた。  二年前のあの時のことを思い出す。でも、あの時のように、血が出る程は強くない。  軽く歯を立てられ、それから、ちゅうっと音がする程に吸い上げられる。 「シウさん、可愛い。首も耳も真っ赤だ ── ここはどう?」  

ともだちにシェアしよう!