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 二年前、始まりは強引だった。  でも、結局は嫌じゃなかった。  そのあとも二回、最後はもうわけがわからなくなった。  身体中に今まで経験したことのない感触 ── あれが快感というヤツなのか。  あの時もただ強引なだけでもなかった。優しくしてくれた部分もある。  今日。  あれ以上『優しく』されてしまったら、もっとどうにかなってしまいそうな気がする。  その前に。 「ハル」  オレは少し冷静になり、真面目くさったような声を出した。 「ん?」  耳許から顔を離し、間近でオレを見る。 「フランスから帰って来る時に、オレ、言ったな」 「ん?」 「オレのこと、“詩雨”って呼べって」 「うん ── でも、シウさんも、“遙人”って呼んでないですよね?」 「う……」  いや、呼んでる。心の中で。たくさん呼んでる。 「時々……呼んでる……」 「そうかも? シウさん可愛いなぁ。そんなこと気にしてるなんて」 「可愛い、言うなー。それから、微妙に敬語使うのもやめろー」 「うん。考えとく」  眼を細めて笑う。  その顔にドキンしてしまう。 ( 笑うこと、多くなったなぁ )  顔が近づいてきて。 ( ああ、でも。オレの前だけかなぁ )  酷く甘やかなものが胸に滲む。 ( だったら、嬉しいなぁ。ホント、遙人には敵わない…… )  諦めて眼を閉じると、唇にしっとりとした感触。ゆっくりと味わうように吸い上げられた後、割れ目をちょんちょんと舌先でつつかれた。オレが薄く唇をひらくと、熱い舌が入り込んできて、咥内を何度も巡る。  Tシャツの裾から大きな手を忍ばせる。素肌を撫で上げながら、服をたくしあげ……。 「ん?」  そこで唇が離れていき、手の動きも止まった。オレは不思議に思い、眼を開ける。  遙人はオレが眼を開けるのを待っていたらしい。  悪戯っぽい顔をして、 「はい、ばんざーい」  と言う。  オレは反射的に万歳をしてしまった。その隙に、Tシャツは腕を通り抜け、ベッドの上にポイッ。  甘い雰囲気が、一気にぶち壊し。 「ハル」  名を呼ぶ声に拗ねたような響き。上目遣いにその余裕そうな顔を見る。 「シウさん」  スイッチが切り替わったように、ふざけぎみの声から甘さを含んだ声へ。  どくんっと心臓が波打つ。  軽い緊張感。  露わになった胸に、遙人がその大きな手を這わせ始めた。片手が右の頂に辿り着く。きゅっと摘まんだり、かりっと引っ掻いたりを繰り返す。  そうしながら、左の頂に唇を寄せ、そっと含む。口の中のそれを、飴玉のようにコロコロと転がす。 「ん……」  擽ったさに零れる吐息。  空いている方の手も動き始める。腹を撫で、それからその下を軽く掠めるように通りすぎ、太腿を何度も往き来する。  は、触ってくれないのかと、もどかしく思う自分に驚く。  自分にも、そんな欲があるのだと。

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