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 背中越しに、無言の圧を感じる。オレは彼から少し離れるように、背を丸めた。 「え……と……その……遙人……あ……い……」 ( だめっ!ムリ! )  やっぱり勢いっていうのは、大切だ。改めて、となると余計に恥ずかしい。さっき言ってしまっていた方がマシだったかも知れない。  離れていた距離を遙人がぐっと縮めてきた。またぴったりとオレの背と遙人の胸が密着し、更に足まで絡めてくる。  耳許に唇を寄せてくる感触。 ( わぁ~絶対、何か言う! ) 「、ちゃんと、言って」 「ひぇっ」  低く甘やかな、それでいて、かなり圧のある声。  ここぞという時だけ、ちゃんと名前で呼ぶの、やめてくれ。 ( ほんと、ズルい男 ) 「ひぇって……。なに、それ。詩雨、可愛い」 ふふっと、さも愛おしげに笑う声が、耳朶を擽る。 ( ふぇっ。も、もう、やめてくれ~ ) 「こんな言葉、まだ、一度も言ったことない。誰にも、だ。」 「うん……」 「……遙人……愛してる……」 「……詩雨……」  ぎゅっと抱き締められる。  肩口に顔をうずめ。 「……ありがと……」  少し声が震えている。  泣いているのか……。  肌に感じる水滴。  それは、じんわりとオレの心にも染み込んでいき、何だか泣きたくなってくる。  形にできない心の内だから、言葉にすることも大事なんだ。 **  ただ冬馬を思っていた頃。  長くて辛い日々だった。  でも、今は、幸せだと感じる。こんな日が来るなんて。  遙人……おまえに出逢えて……良かった。  この先のことは誰にも分からない。   ( それでも……ずっと、おまえといたいよ、遙人…… )  遙人の強く温かな腕の中で、オレは、そう願った。 ★★ そのごのそのご ★★  また、しばらく抱き合ってて、ふと冷静になる。 ( なんか……びちゃびちゃ )  汗やら唾液やら精液やら。 ( このまま寝るのはなぁ ) 「シウさん、お風呂入りましょうか」  オレの顔を見ているわけでもないのに、オレの心を読む。 ( ていうか、やっぱり、手慣れすぎじゃない? )  そんなちょっとしたところにも、女の影を感じて、ちょっとムッとする。  なんて、心狭い。  よくこんなんで、冬馬と秋穂のこと耐えてたな、と思う。  それとも、やっぱり、遙人がオレにとっての特別か。  真っ()でベッドから降りた遙人が、やっぱり真っ裸のオレを抱き上げる。 「ちょっ、ハル」 「シウさん、動けないでしょ」  確かに。  たぶん、立ち上がったら、足がぶるぶるして倒れてしまうような気がする。  それから。  身体も髪も丁寧に洗って貰い、今は温めのお湯にふたりで浸かっている。

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