121 / 123
─ 15
背中越しに、無言の圧を感じる。オレは彼から少し離れるように、背を丸めた。
「え……と……その……遙人……あ……い……」
( だめっ!ムリ! )
やっぱり勢いっていうのは、大切だ。改めて、となると余計に恥ずかしい。さっき言ってしまっていた方がマシだったかも知れない。
離れていた距離を遙人がぐっと縮めてきた。またぴったりとオレの背と遙人の胸が密着し、更に足まで絡めてくる。
耳許に唇を寄せてくる感触。
( わぁ~絶対、何か言う! )
「詩雨、ちゃんと、言って」
「ひぇっ」
低く甘やかな、それでいて、かなり圧のある声。
ここぞという時だけ、ちゃんと名前で呼ぶの、やめてくれ。
( ほんと、ズルい男 )
「ひぇって……。なに、それ。詩雨、可愛い」
ふふっと、さも愛おしげに笑う声が、耳朶を擽る。
( ふぇっ。も、もう、やめてくれ~ )
「こんな言葉、まだ、一度も言ったことない。誰にも、だ。」
「うん……」
「……遙人……愛してる……」
「……詩雨……」
ぎゅっと抱き締められる。
肩口に顔をうずめ。
「……ありがと……」
少し声が震えている。
泣いているのか……。
肌に感じる水滴。
それは、じんわりとオレの心にも染み込んでいき、何だか泣きたくなってくる。
形にできない心の内だから、言葉にすることも大事なんだ。
**
ただ冬馬を思っていた頃。
長くて辛い日々だった。
でも、今は、幸せだと感じる。こんな日が来るなんて。
遙人……おまえに出逢えて……良かった。
この先のことは誰にも分からない。
( それでも……ずっと、おまえといたいよ、遙人…… )
遙人の強く温かな腕の中で、オレは、そう願った。
★★ そのごのそのご ★★
また、しばらく抱き合ってて、ふと冷静になる。
( なんか……びちゃびちゃ )
汗やら唾液やら精液やら。
( このまま寝るのはなぁ )
「シウさん、お風呂入りましょうか」
オレの顔を見ているわけでもないのに、オレの心を読む。
( ていうか、やっぱり、手慣れすぎじゃない? )
そんなちょっとしたところにも、女の影を感じて、ちょっとムッとする。
なんて、心狭い。
よくこんなんで、冬馬と秋穂のこと耐えてたな、と思う。
それとも、やっぱり、遙人がオレにとっての特別か。
真っ裸 でベッドから降りた遙人が、やっぱり真っ裸のオレを抱き上げる。
「ちょっ、ハル」
「シウさん、動けないでしょ」
確かに。
たぶん、立ち上がったら、足がぶるぶるして倒れてしまうような気がする。
それから。
身体も髪も丁寧に洗って貰い、今は温めのお湯にふたりで浸かっている。
ともだちにシェアしよう!