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第1話
いよいよ自由登校が始まった。高校卒業間際の今、俺たちの世界は大きく2種類に分けられる。身を削り、寝る間も惜しんでテキストに向かう者、そうでない者。
後者は呑気だ。
内定が決まり自動車学校に通う俺達就職組と、同じく既に推薦で大学が決定しているエリート組から成る謎メンツで親交を深める貴重な時間。勿論自主的に勉強に励む努力家もいるが、そういった秀才型と高卒確定の俺達とではそもそも馬が合わない。
今日も進学クラスの天才を含めた数名で、昼前からファミレスに居座っている。
「マサル君さっきだけで何人?」
「ん〜、どうだろうね。数えてないけど20人くらいかな?」
「あ、そう…羨ましい~…」
俺の隣で期間限定パフェを平らげた賢は、頭よし運動神経よしの誰もが認める天才だ。対面に座る西野が問うも、何が羨ましいのかもわかっていなそうな国宝級天然イケメン。
街を歩いているだけで、コイツがどれだけ成績優秀で速く走れるかもわからないのに次々声を掛けられる。
それも女性ばかりではない。
ある時は芸能界のスカウト、ある時は雑誌の写真撮影。一番びっくりしたのは二次元の女アイドルに似ていると言って5人のオタクに追い掛け回された時だ。
だが、賢はモテない。
どんなに頭が良くても、運動ができても、容姿が抜群に格好良くても、人として最も大事な部分がとんでもないから。
そう。コイツは──
「みんなボクの美しさをよくわかってるよねぇ。でもボクの美しさを一番知っているのは他でもないボク自身なんだ〜」
超ド級のナルシスト。性格0点。
俺も西野も、西野の隣に座る上田も、賢以外の全員が就職組だ。商業科と普通科特進コースでそもそもクラスから違う。
賢は凄いし格好良い。それは同じ高校に通う生徒なら誰しもがわかっている。だが、その性格のクセ故に誰一人として友達になろうとする人間が現れないのだ。だから俺は、信頼出来る2人の友人に紹介を兼ねて約束をこじつけたのである。
俺は保育園から一緒だから賢の性格を簡単に受け入れられるが、初めて話す西野と上田は完全に引いている。上田なんてさっきから氷しか残っていないオレンジジュースを永遠にズゴズゴ吸い続けている。他のお客さんに迷惑だから辞めてやってくれ、上田。
本当はこのまま同じく商業科の女子数名とココで合流する予定だったが、そこは西野が上手く機転を利かせてくれた。賢が話すと確実に空気が淀む。ならば会話量を抑えられるカラオケでどうだ、と。
「じゃ、じゃあそろそろ向かう?上田も飲み終わったみたいだし」
西野の合図で3つの椅子が同時に引かれる。
…あと1つはどうしたって?そんなの決まってるじゃないか。
「賢、出るよ。手貸して」
「気が利くね、真吾は優秀だ」
「わーったわーった」
椅子を引いてやり、足元のかごからバッグを拾う。賢の右側に手を差し出すと、そこでようやく彼は俺達と目線の高さが同じになった。先に動き出していた2人は呆然と立ち尽くしているが、やはり初めて見る奴らはこういう反応になるんだろうか。
これが俺と賢の通常なのだと、すぐに理解してくれる人とは未だに出会った試しが無い。
街中で声を掛けられたシリーズのアレ、詳細を全て知っていたのはこれが理由だ。
スカウトだ何だと言ってくる奴らの名刺は俺が全て管理している。入念に調べれば予想通りいくつかは胡散臭い会社に辿り着くから気が抜けない。
信頼出来る雑誌であれば、稀に撮影に応じる時もあった。その中でも更に稀に現れる物好きは俺まで撮っていく事も。
…とはいうものの、俺は別に賢の召使いでも何でもない。至って普通の家庭で育ち、お坊ちゃんでも何でもない超絶一般人の賢と幼い頃から共に過ごしているうち、いつの間にか今の関係性が成り立っていたのである。
金を貰っているわけでも強制されているわけでもなく、自主的にやっている。
「……おいシン、お前マサル君に弱みでも握られてんの?つか何なのあの人」
「何って…賢は賢だしアレが賢」
「意味わかんねぇ…」
耳打ちしてくる西野、レシートと電卓アプリを交互に睨む上田、間に挟まれる俺。
…の背後で賢は、またもや当たり前のように店員からの熱い視線を浴びていた。
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