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第1話 テディベア系男子の初恋(上)

「ただいま……」   「お帰りなさい克海(かつみ)、学校は楽しかった?」 「ママ……」 僕は涙を堪えきれずにママの胸に飛び込んだ。僕のママはとてもきれいなオメガ男性で、すごくすごくいい匂いがする。 いじめられて帰ってきても、この匂いを嗅いだだけでスッと気分が落ち着くんだ。 ママは僕のことを抱きしめ頭を撫でながら言う。 「そんなに泣いてどうしたの克海?」 「あのね、またみんなが僕のことを太っちょだとかクマみたいっていじめるんだ……」 「ああ、そうだったの。それで泣いちゃったの?クマどころか可愛い目がウサギさんみたいに真っ赤だよ。ほら、涙を拭いて」 ママは優しく微笑んで涙を拭いてくれる。 ウサギ?僕はそんな可愛い動物に例えられるような見た目じゃない。なのにママはそんな僕を傷つけないようにいつも気を遣ってくれるんだ。だから僕はママが大好き! 「ママ、僕太っちょで身体が大きくてみっともないよね?」 「え~?何言ってるの。ちょっとみんなよりは大きいかもしれないけどそこまで太ってないと思うよ。それに、この先背が伸びてすぐに痩せるから安心して」 「え?うそだ。そんなの……」 僕の背が伸びて、痩せる?そんなわけないよ。 「そうだよ。だってパパも昔は克海とそっくりだったんだもの」 「え!?パパが!?」 「うん、ママがパパに最初に会った時ちょうど今の克海と同じくらいの歳でね。うーん、パパが10歳でママが14歳だった」 「そうなの……」 僕は今9歳だから大体同じくらいだ。その頃のパパ、僕みたいに太ってクマさんみたいだったの? 全然信じられない。 今はとても背が高くて、みんなが見惚れるようなかっこいいパパだよ。本当に僕もあんな風になれるの……? 「あ、もしかして疑ってる?ママが嘘ついたことなんてあった?」 僕は少し考えてから首を横に振る。 「ない」 「でしょ?安心して。これからぐんぐん背が伸びて、動けば動くほど筋肉が付くよ。克海はパパそっくりだから、スポーツもきっと得意になるよ」 「本当?スポーツも?」 「勿論。心配しないで、ね?」 「うん……ママありがとう」 「さ、お腹すいたでしょう?おやつにしよう」 おやつと聞いて一瞬僕は嬉しくなった。でも、自分の体型を思い出してちょっと憂鬱になる。 「でも……おやつ食べたら太っちゃうよ」 「ああ、そんなこと気にしてるの?大丈夫、今日のおやつはゼリーだからそんなに太ったりしないよ」 それを聞いて僕はやっぱりおやつを食べることにした。 「じゃあ、ちょっとだけ」 ◇◇◇ その日の夕飯の時、ママがパパに僕のことを話した。 するとパパはすっきりと整った顔をほころばせて言う。 「克海もそんなことを気にするようになったか」 「パパ、昔はパパも僕みたいに太ってたって本当?」 「あはは!そうそう。パパはそうだな、うーん、克海よりもっと太ってたかも。なぁ?冬海(ふゆみ)」 冬海っていうのはママのことだよ。僕の名前はママの”冬海”と、パパの”克哉(かつや)”が合体した最強のお名前ってママが教えてくれた。 ママもにこにこしながら言う。 「そうだね、うん。もう少しパパの方が大きかったかも!」 「そうなんだ……」 そしてパパはママのことを見ながら話し始めた。 「最初に会った時、俺は兄貴達にからかわれて泣いてたっけ」 「ふふ、そうだったね。誕生日パーティーの主役だっていうのに顔にクリームたくさん塗られちゃって……」 「今考えても酷くないか?兄貴達、あの頃は俺のこと随分馬鹿にしてたよなぁ」 「今じゃ考えられないけどね?」 パパのお兄さんってことは、つまり僕のおじさんたちのこと?今はパパの方が背も高くて、パパがからかわれてたなんて想像もつかないや。    「ねえパパ、それでそれで?」 「ああ。それでね、パパが泣いて裏庭に隠れたらそこにママが現れたんだ」 パパは昔を思い出すように虚空を見つめた。 「最初見た時、女神様が現れたのかと思ったよ」 するとママが吹き出した。 「ぷっ、やめてよ克哉くん。それは言い過ぎ」 「本当だよ。涙で目が霞んでたのもあるけど、後光が差してるようにキラキラして見えたんだ」 「はぁ、もう。大袈裟だねえパパは」 「白いジャケットを着たママはすごーく綺麗で、夕陽が当たって髪の毛が透けてキラキラしてたんだ。わかるよな?克海」 僕はウンウン、と頷いた。だってママは今でも女神様みたいに綺麗だもん。 「それで、泣いてる俺に優しく話しかけてくれた。クリームと涙でベタベタな顔をハンカチで拭いてくれて……」 そしてママが言う。 「拭いただけじゃ取れなくて、僕の顔にまでクリームが付いたりして2人で笑っちゃったんだよね」 「ああ。それで、パウダールームで顔を綺麗に洗ってくれてね。なんて優しいんだろう、これが僕の運命の人に違いない!って俺は一目惚れしたんだ」 ママは僕に耳打ちした。 「パパって思い込みが激しいから、ね?」 「それからパパは、女神様に相応しい男になるため頑張ったんだよ」 「そうなの?」 「ああ。好き嫌いせず何でも食べて、あ、肉も野菜もだぞ?夜更かしせずに早寝早起き。勉強もスポーツも何でもみんなより努力した」 「そうだったんだ……」 パパはアルファだから、そんなに頑張らなくても何でもできちゃうんだって思い込んでた。でもそうじゃなかったんだ。 「成長期を迎えたら背も一気に伸びて、中学から高校に上がるまでに20センチくらい伸びたかな?もう俺のことを太ってるなんて思う奴は居なくなった」 「あの頃は会う度に克哉くんが痩せて背が伸びてくのが面白かったなぁ。僕の方が最初は背が高かったのにあっという間に抜かされて今じゃ見上げるほどだもんね」 パパとママは幸せそうに顔を見合わせている。最初高嶺の花だったママと、努力して愛を勝ち取ったパパは今ではとってもお似合いだ。 僕はついぽろっと本音が漏れた。 「いいなぁ……僕もそんな風になりたい」 「なれるさ」 パパの肯定にママも横で頷いている。 「でも、僕そんなに頑張れるかな?今は何をしても馬鹿にされちゃうし……」 「克海、そんなに落ち込まないで」 「絶対パパみたいになれるさ!」 「うん……」 そうは言ったものの、僕はやっぱり自信が持てずに悶々としながら眠りについた。  

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