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第22話——side竜ヶ崎獅郎 アイディアリズム——

 竜ヶ崎は未だ絡み合う執着と自己嫌悪に惑わされている。  ひっきりなしに連絡が来る桜木のアイコンを忌々しげに見つめ、弓月の保護と称して他人への干渉を阻んでいることを自覚する。おそらく、桜木も気付いているだろう。  深いため息を吐いて、深呼吸をする。  二週間の停学期間は竜ヶ崎にとって好機だ。  このまま弓月といれば、自己嫌悪に悩まされる上に、弓月を色んな意味で傷付けてしまう。 (良い機会だ。桜木というゆづ贔屓をする駒に、ちゃんと守ってもらえ)  反省文をくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱へ投げ入れた。そこそこ距離のあるところからほっぽった紙屑は、綺麗にゴミ入れに入った。  竜ヶ崎の決断が正しいと言っているかのようであった。 (良い兄貴でありたかった)  弓月にとって危険となる因子は、いくら幼馴染みで、多少の強引が許される竜ヶ崎であっても、竜ヶ崎自身が許せない。だから、この決断は常識的に考えて正しい。  ——正しいのだろう。  口寂しさが増長して舌打ちの回数も当然増える。  それから、停学期間を一人で過ごすうちに、スマホを確認する頻度が減っていった。    桜木からの日誌のような連絡に辟易としているが、何より弓月からの連絡の有無を確認することが怖かった。  桜木は弓月至上主義なところがある。弓月を最優先に考えて行動するため、菊池との関係を弓月が望めば、それまでだ。  だが、桜木は他の思惑があるのか、事細かく弓月の行動を報告するくせに弓月の感情までは教えてくれない。もっと驚いたことと言えば、桜木に弓月のことを頼んだ数日後には、「菊池の件は解決しました」と早期解決の報告をしてきたのだ。  無論、菊池の動機は知らされていないし、弓月の対応も分からずじまいである。  停学期間を一週間越えたところで、ようやく岡田たちの騒ぎが出回り、竜ヶ崎の周りは以前にも増して静かになった。帰宅も途中で声をかけられることがうんと減った。  登校も帰宅も退屈したことはなかったが、どうやら来客がいたからではなさそうだ。  口寂しさを紛らわすため、コンビニへ立ち寄る。店内を一周回って、再度菓子コーナーに目が止まる。言わずもがな、飴であり、純朴な味わいのべっこう飴だ。  手に取ることまではできたが、どうしてもこれは買うものではなく、貰うものという意識が抜けきれない。 (ここでも俺は囚われたまま、か)  苛立ちの末、何も買わずにコンビニを後にした。その間、スマホの着信が幾度もあり、余計に腹立たしく思った。  すると、聞き覚えのない女の声が、竜ヶ崎の動きを止めた。「そこの金髪のお兄さん!」。 「……なんだ」 「えっと、今暇ですかぁ? ウチらもちょうど暇でぇ」  二人の女が竜ヶ崎を逆ナンしている。厚化粧とはしたないほどに短いスカートで、彼女たちからはひしひしと多大なる自信が伝わってくる。  だが、竜ヶ崎にとっては、それは大したことではない。彼女らの誘いを適当に受け、寄り道を続けた。これで多少の退屈凌ぎになるだろう。  それよりも彼女たちが身に纏う制服が気になる。「なぁ、その制服って。岡田がいるとこじゃねぇか?」。

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