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第25話
「アンタが臆病なせいで、いろんな人を巻き込んでるんだよ!! それに気付けるチャンスだってあったはずなのに、見たくないものには蓋をして……それでもS校のドンかよ!!」
年下の小さい男に街中で怒鳴られ、檄を飛ばされ、痴態を晒す大男の竜ヶ崎。
しかし、その檄は、あまりに図星を突いたもので、竜ヶ崎の怒りは鎮静化してしまった。
「強気で強引なのが竜ヶ崎さんなら、途中でへばって弱いところを安易に見せないで下さい。それに集る蝿に足元を掬われるのは、竜ヶ崎さんだけじゃないんすから」
「目を背けず向き合って下さい」と息巻く桜木の意図をうまく汲み取れないものの、逃げるなと言われていることだけは受け止めざるを得ない。
竜ヶ崎は舌打ちをして掴んだ手を離す。「じゃあ、俺は今からゆづの恋路を邪魔しに行くからな」。
そう桜木に言いながら、執着心と嫉妬心に嫌悪していた竜ヶ崎は、それらの感情を抱く自身を赦してみる。
弓月しか見えていない自分と弓月には幸せでいて欲しい自分。この内在するアンビバレントな感情が苦しかった。どちらかを選べば、どちらかの感情を捨てることになる。——傲慢な感情を取るか、弓月の感情を優先するか。
「精一杯三浦先輩の邪魔をすればいいじゃないですか。邪魔ができたらの話ですけど」
桜木も通常運転の桜木に落ち着いたらしく、余裕たっぷりにほくそ笑んで煽ってくる。だが、桜木は暗に両方を手に入れる選択もあることを示したかったのだろう。竜ヶ崎の視野が狭くなった眼では二者択一しか考えられていなかったのだから。
でなければ、こうして檄を飛ばしてまで竜ヶ崎を焚きつける理由が見当たらない。
「僕はこれから行くとこあるんで、失礼します」
桜木は颯爽とその場から遠ざかって行った。竜ヶ崎がこれから弓月の邪魔をするかもしれないというのに、無警戒なものだ。
「……どこまでも可愛げねぇな」
竜ヶ崎もこの場を後にする。それからほとんど触らなくなっていたスマホを取り出して、溜まりに溜まった受信メールを開いた。目を細めて、弓月からのメールを確認する。
桜木の乱発されたメールに比べれば大した量はないが、古いものからひとつひとつ読んでいく。
退院直後で、検査はどれも異常は無かったこと、怪我が治ってきて包帯が取れたことなど、当たり障りないが竜ヶ崎が気にかけていた事が綴られていた。
そして、竜ヶ崎は直近のメールまで読んだところで、細めていた目が最大限に開く。「落ち着いたら話したいことがある、ねぇ」。
本日二度目の嫉妬心に支配され始める。平静さを取り戻そうと思えば思うほどどツボに嵌っていき、歩みが速くなる。弓月の家にはおらず、学校に引き返したがそれも同じく弓月の姿はない。
早る気持ちのまま一旦帰宅することにした。夜なら必ず弓月も帰宅しているだろうと踏んで。
その間、弓月に着信を入れてみるが、応答することはなく。竜ヶ崎をさらに闇夜へと堕としていった。
憤悶とした気分のまま帰宅して自室のドアを引く。
「よっ! 久しぶり」と聴き慣れた、だけど、酷く懐かしい声が竜ヶ崎を包んだ。
あれだけ探し回った人物が目の前に現れているというのに、我に返った竜ヶ崎は動揺を悟られまいと「俺、まだ停学期間中で、生徒との接触禁止なんだけど」と素っ気ない態度を取る。
冷たい態度に少し腹を立てたのか、制服を脱ぐ竜ヶ崎を余所に男はベッドにふんぞり返った。
(冷静、冷静、冷静。絶対変な気を起こすなよ、俺)
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