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第26話——贖罪と赦免——

「俺、まだ停学期間中で、生徒との接触禁止なんだけど」 「えーいいじゃん! 帰宅してからはプライベートなんだし」  約一週間と少しぶりの再会にも関わらず、竜ヶ崎の突き放す言葉が胸に突き刺さる。その間のメールや電話は一切の無視を貫かれた。 (たしかに、シロを傷付けた自覚はある)  弓月から言葉を投げかける以外は、全て無言を決め込む竜ヶ崎。  こうして持ち主より先に、持ち主のベッドで持ち主の漫画を広げて勝手に寛いでいても、文句の一つも上がってこない。  弓月からの連絡には見向きもしない竜ヶ崎に、桜木のスマホを使って着信を入れたが応答してくれることはなく。必ず会える竜ヶ崎の自室で待機した。  竜ヶ崎が帰宅する前に感じたが、本人が部屋にいて二人きりの空間になってさらに思う。 (シロの部屋に上がるの、ホント久しぶり)  部屋に懐かしさを感じないほど、部屋の内装は変わってしまっている。  それでも、久々に二人きりのシチュエーション。竜ヶ崎への好意を自覚してからは初めてである。 「シロ? あのさ、メール……は見てないか。えっと、俺、話したいことあって」 「あぁ? 話したいこと?」 (嗚呼……完全にガン飛ばされた。やっぱ迫力あるから怖ぇ)  漫画を閉じてベッドの上で正座をする。誠意を持って、真剣に話せばきっと竜ヶ崎は耳を傾けてくれる。竜ヶ崎のことを信じてやまない弓月は、一度も目を合わせない竜ヶ崎に向かって「菊池さんとのこと謝りたいと思って——」と口を開いた刹那。 「謝罪なんか要らねぇ」  どすの効いた声で弓月の話を一刀両断。そして、竜ヶ崎は弓月を馬乗りにして「謝罪より——だったらさぁ、お前、孕めんの?」とシャツをたくしあげ、顕になる腹を指で滑らかになぞっていく。鳩尾あたりから臍部《さいぶ》、そして下腹部まで指は降りてくる。  降りた先で、竜ヶ崎の指が意図を含《はら》んだ動きで下腹部を押さえた。まるで、そこに生命が宿ったかのように。  その仕草に、弓月は腹奥が疼いた。同時に、竜ヶ崎の家に上がり込む前に決めた決意に再度腹を括る。  ようやくこちらを見る竜ヶ崎が一切の瞬きもせず、弓月の瞳を射るように見ていたとしても、その絡みつく視線から目を逸らさない。 「……孕めるって言ったら、シロは俺をどうするつもりだった?」  弓月の言葉に肩を揺らす竜ヶ崎。それを間近で見て、恐怖心を抱いていた自分が馬鹿らしく思えてくる。 「はは……。俺は男だから、実際には手は出せないか」 「……」 「っ、ハハッ。シロだけずりぃよ。シロだけ女の子と遊んで、俺はダメで」  それから弓月は眉根を下げていう。「都合良すぎなんだよ」。 「だから、菊池さんも怒ったんだ」 「どういうことだ」 「菊池さんは、シロに手酷くフラれた子だよ。怒るに決まってんじゃん」  「飽きた。この一言で済まされる身になってみなよ」と言って弓月の腹を弄る竜ヶ崎の手を甘受する。 「俺が言った通りになったんだよ。結局、女の子絡みのトラブルだったんだよ、今回の騒ぎ」 「俺の、せい……か」 「違う。俺たち、だ」  処置室で交わした言葉を一言一句忘れられず、今日まできた弓月。菊池の改心を無駄にしてはいけない。だが、何も欲しがらない一匹狼の竜ヶ崎の心も守りたい。  このジレンマによって言葉を濁した弓月は、どちらも傷付ける結末を迎えてしまっていた。  しかし、元を辿れば、「飽きた」の一言で突き放した竜ヶ崎、そして竜ヶ崎の弱みにならないよう、半端な気持ちで声をかけた弓月が問題である。不誠実な言動をしてきたからこそ、それ相応のことが返ってきただけの事だった。  跨って弓月を覆う竜ヶ崎に、「今日話したかったのは、この事。菊池さんを二人して傷付けたから、一緒に謝ろうっていう提案をしに来たんだ」と身を起こして言った。

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