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第27話
「俺も俺でまだ菊池さんに打ち明けてないことあったからさ。この際、みんなゲロっちゃうのが最善だと思うんだけど、どう」
「どう……って」
未だ混乱気味の竜ヶ崎に、弓月は再度言い含める。「逆の立場になってみ? 俺がシロを飽きたって言って、後はポイ。そこにいくら友情しかない間柄でもイラッとするでしょ」。
自分で補足して自らの傷を抉った気分だ。瘡蓋 になって、空気に触れても痛く無くなってきたというのに。
(さっきも手は出せないことを否定しなかったじゃないか。いい加減、諦めろって、俺)
すると、今度は竜ヶ崎が苦渋の決断を迫られた顔をして、「すまん」と漏らした。
それから続けて、竜ヶ崎は菊池との交際を反対する旨を吐露した。別れてほしい、と。
寝耳に水の状況である。思わず聞き返すと、「桜木も、ゆづも菊池とのことを否定しないから、てっきり付き合ってると」と拍子抜けするようなことを言うのだ。
「ちょっと待ってよ?! 俺も傷付けた側だから一緒に謝ろうって言ってんじゃん! それに百合ちゃん呼びやめたままだし」
「ちゃんと話聞いてた?」と竜ヶ崎の胸を軽く叩いた。
呆気に取られる竜ヶ崎はまたぶつぶつと独り言を漏らしてハッとする。「俺の早とちり……」。
それから竜ヶ崎は矢継ぎ早に弓月を質問攻めに遭わせた。おかげで、処置室で菊池を庇った件は誤解は晴れたが、それこそ、桜木との会話までも知りたがる。送り込んだのは竜ヶ崎のくせに。
だが、弓月と距離を置くために桜木を竜ヶ崎の代わりとして立てたのは、事実だということが判明した。つまるところ、弓月に対して好意的な感情は無いらしい。
竜ヶ崎の真意が分からぬまま瘡蓋を剥がしたばかりで、傷口は余計に染みてじくじくと痛む。
竜ヶ崎が深く息を吐いて「ゆづ。許せ」と身を起こした弓月を抱き寄せて口付けた。
弓月が驚いたのも束の間、口を開けるよう催促されて、それに大人しく従う。弓月の門扉が開かれると、性急に唾液の少ない竜ヶ崎の舌が口内をザラつかせる。暴れ回るというよりは、あちこちを観光するような、楽しむ余裕のある戯れだ。
一方、弓月は性的接触の経験が浅く、口内で楽しんでいる竜ヶ崎の舌を受け入れることしかできない。多少の胸のざわつきこそあれど、妬むまではいかなかった。
「俺は、良い兄貴にはなれなさそうだ」と言って弓月を押し倒したのだ。
竜ヶ崎にどのような心境の変化があったのか、それは誰にも分からない。弓月の可否も聞かずに、優しく押し倒して「好きだ」と一言。妬みなど吹き飛ばすほどに、弓月は満たされた。
(菊池さん、ゴメン。名実ともに、菊池さんを「当て馬」にしてしまった)
「やっと返事くれた」
「処置室でシロのこと好きだって言ってから音沙汰なしで、振られたとは思ってたけどそう思いたくなくって。俺の中では、保留にされたことにしてた」穏やかに微笑んでそれまでのいざこざを一蹴する。
案の定、竜ヶ崎は弓月の告白を告白だと受け止めておらず、また、その辺りの記憶があやふやだと言う。
初めて弓月が竜ヶ崎を否定したことが要因であることは簡単に分かる。今の竜ヶ崎を見ていれば。
優しい顔をした竜ヶ崎が涙目で「俺はこれからも俺でいていいか?」と聞いてくるのだ。どれだけ竜ヶ崎を傷付けたのだろう。罪悪感が芽生えるほどに、目の前の竜ヶ崎は牙をすっかりと折られている。
好き勝手にすること自体は以前と変わらないのに、今は勝手にするという前置きを口にする竜ヶ崎に、「おうよ、今までと変わらずシロでいろ」と強気の発言をしてみせた。
それに気を良くしたのか、竜ヶ崎が微かにほくそ笑んだ。その表情をみて安堵したが、これが竜ヶ崎のゴングを鳴らした合図だとは分からず。
「とりあえず、仲直りのセックスだな」
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