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第40話

 しかし、何の気なしに言ったつもりの言葉が、菊池を変えた。  竜ヶ崎と三浦が菊池へ先に謝罪に来たことで色々吹っ切れたらしく、菊池は屋上に残る桜木に言った。「私、数日前に先生に言ったの。岡田たちに頼んだのは自分だって。でも、実行犯じゃないし、今回の件はそれぞれの学校で済ますってことにしたからこれ以上咎めるつもりはないってさ。それじゃあ、私の禊にならないから、生徒会会長になって生徒数を増やし学校の利益貢献するって約束しちゃった!」。 「ほぉ、こりゃ大きく出ましたね」 「できなければ、退学でも何でもしてやるわ」  三浦への謝罪が遅れたことだけが心残りらしいが、菊池の眼に寸分の迷いもない。気晴らし程度の提案のはずが、大きな枷を着けて挑む菊池には、どこか清々しささえ感じる。  桜木は菊池の隣まで歩き、それから手摺りの上に立ってみる。 「肇君まで危ないわよ」 「竜ヶ崎さんには言わなかったくせに」 「だって、アンタは——」  竜ヶ崎と比較するような言葉を言わさずに「僕はそう見えるようにしてるだけで、実際はめちゃくちゃ鍛えてます」と被せたてアスファルト側へと飛び降りた。  それに顔面蒼白させた菊池が、桜木の名を叫ぶ。同時に手摺りに身を乗り出したが、桜木の最後に伸ばした掌を掠めた。 「菊池さん、ハロー!」 「ちょ、アンタ一体どんなとこに立ってんのよ?! 大丈夫なの?!」 「桟です」  にか、と菊池へ笑みを向けるも、冗談が過ぎたのか怒り口調で「さっさと上がってきなさい!」といった。 「大丈夫ですって。ちゃんと降りられる場所だったからジャンプしただけですし」 「あり得ない。ホントあり得ない!」 「すいませんって。だって、菊池さんばっかり漢らしいこと言うから、僕もそれなりの覚悟を示さないといけないって思って」 「私は命までは賭けてないわ」  菊池に魅入られて予定にないことまでしてしまったのは否めないが、これで少しは鍛えていることの証明になるだろう。 「僕も立候補しますよ。生徒会役員に 」  「そんで、今度は菊池さんを守らせて下さい。貴女の右腕として」身軽に手摺りまで登りきった桜木が華麗に菊池側の方へ着地する。無駄に宙返りをしてさらにアピールもして見せる。 (三浦先輩の時は守るも何も、竜ヶ崎さんが岡田たちを半殺しにしてるせいで完全に抑止力になっていたからなぁ。絡んでくる奴なんか皆無だったな) 「だったら、役員なんかじゃダメじゃない。副会長じゃなきゃ」  菊池はそう言って、たなびく横髪を耳にかけた。その仕草に、一瞬でも鼓動が鳴ったことに桜木自身驚いた。  だが、もっと驚いたのは菊池のポテンシャルだった。桜木は三浦を守るために、頭を使えるような参謀的ポジションを想定して、S校には足りすぎる学力を持っている。  だから、生徒会役員立候補の必須条件とされている学力は十分に満たしている。一方で、菊池もS校と大差ないところから編入しているため、桜木は菊池の学力向上から指導するつもりだった。  しかし、前回の校内定期考査と全国模試の結果を見せてもらうと、校内のレベルだけではなく全国模試でも十分に成績を修めており、さらには桜木よりも学力は上だったと言うことが判明した。  「僕の周りは僕の努力を無に帰すような人たちばっかりでもう嫌だ」と弱音が溢れるくらいには、落胆する事実であった。  菊池と竜ヶ崎の衝突を恐れて竜ヶ崎にはいい塩梅の報告しかしてこなかったが、これでは菊池本人に相談したほうが得策であったかもしれない展開を呈してきた。

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