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2012年 夏……①
2012年、夏――。
関根直人 は友人の松岡 と共に、カラオケ店へと向かっていた。
「関根が懐メロに詳しくて助かったわ」
松岡が、機嫌良く言う。懐メロのリバイバルが、最近女性に人気と知った松岡は、モテるために情報を教えてくれと頼んできたのである。
「でも悪いな、忙しい時期に」
二人は、共に高校三年生なのだ。松岡はもう進路が決まっているが、直人はこれから医学部受験を控えていた。
「いいよ、僕も息抜きしたかったし」
本音である。医学部受験は両親の希望によるものだが、直人には正直負担だった。高校受験の際、第一志望の学校に受かっていたら、と直人は今でもよく思う。そこには、医学部への内部進学制度があったのだ。それなら、医学部も夢ではなかっただろうに……。
二人でカラオケ店に到着すると、そこには一人の見知らぬ少年が待っていた。
「こいつ、来住竜平 っていって、俺の中学時代の後輩。こいつも懐メロに詳しいから、助っ人に呼んだんだ」
松岡は気軽に紹介したが、直人は戸惑った。もう一人来るなんて、初耳である。
「関根です、どうも」
「来住竜平です。竜平って呼んでくださいね」
そう言って、竜平は人なつっこく笑った。――それが、竜平との出会いだった。
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