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第64話 贅沢者
「あ! ねぇ! 悠壱! 明日はデートしねぇ?」
派手な水音を立てて、実紘が湯から身を乗り出すように身体を起こした。
「…………あ、あぁ」
思わず、俯いてしまった。
いまだに慣れないんだ。二人で風呂に入るのは。なんというか、目のやり場に困るというか。いや、もう彫刻のように綺麗な身体は鑑賞するに値するんだけれど、その身体についさっきまで散々しがみついていたんだと思うと。
「悠壱?」
「!」
先に湯に浸かっていたはずの実紘が目の前に現れて、仰け反ってしまった。
「あぶっ……ねぇって」
「ご、ごめん」
失礼なくらいに避けてしまった。その拍子に椅子から滑り落ちて尻餅をつきそうになったのを実紘の腕が支えてくれた。
「っぷは、真っ赤じゃん」
「!」
「いっつもそうだよね。俺の裸見る時。散々やってんのに。二回目にさ、やった時も真っ赤になって布団の中にこもってた」
「だ、だって」
そりゃ、そうだ。相手は実紘だぞ? 同性だからって、同じような身体、なんていうふうには到底思えないんだ。
「良い身体してる?」
してるよ。もう、そんなの世界中の女性が欲しがるくらいの、世界中の男性が羨むくらいの。
「真っ赤になっちゃうくらい?」
「うわっちょっ! まだ、俺は泡が!」
自由な振る舞いすら実紘がすれば魅力の一つに変わる。まだもたもたと身体を洗っていた俺の腕を引っ張るとそのまま湯の中に連れ込まれてしまった。泡だらけの俺を膝の上に乗せて、まとっていた泡がお湯にゆっくりと溶けて行く。そして盛大な水飛沫をあがった、それがかかってしまった実紘の綺麗な髪から雫が伝った。
「もう、何してんだ。まだ泡を流してないのに」
「いーじゃん、別に次に誰かが入るわけじゃないし」
くすくすと笑って、楽しそうにしてる。その濡れた髪から滴った雫が目に入ったのか、片目を閉じた。
「ほら、言わんこっちゃない……」
大事な目だろ、そう呟いてその目元を指先で拭ってやった。
そっと、目に入らないように、泡で赤くなってしまわないように、そっと。
「ねぇ、悠壱」
「ん?」
呼んだくせに口を閉じたまま。どうしたんだろうと。
「今のすげぇ嬉しい」
「?」
「大事にされんの」
些細なことが。目に泡が入ってしまったらと拭ってやっただけのこと。何も特別なことはしてない。けれど実紘にとっては違うんだ。
「大事に決まってる」
その綺麗な瞳が俺をじっと見上げた。
「ね……これぜーんぶ、悠壱のだよ」
そうだったら、すごいな。実紘の全部、なんて。
「ねぇ、悠壱」
「……」
よかった。目は赤くなってない。泡は入らなかった。
「好きだよ」
「……ン」
膝の上で抱き抱えられながら、餌を欲しがる雛のように実紘が首を伸ばしてキスしてくれた。そっと唇が触れて、隙間から舌が入ってきて。
「ん、ン」
舌が絡まる。湯が立てる水音とは違う、キスの音が浴室に響いた。
「贅沢だな」
「? 悠壱?」
キスの隙間でそう答えて、今度は俺が舌を割り込ませて、口付けた。
「実紘の全部を……なんて」
「そう? 本当だよ。全部、悠壱のだから」
「あ、ン」
乳首をチュウっと吸われて、小さくやらしい声が出た。まるで女性みたいに甘いのを男の俺の低い声で。
「ねぇ、好きにしていーよ」
「っ」
抱き抱えられたまま、腰を引き寄せられて、まだ泡の滑りがわずかに残っている肌を撫でられる。乳首にキスをされて、ピクンと肩が跳ねた。
「俺のこと、悠壱のしたいように、してよ」
「あっ」
俺の腰を抱いていた実紘の手はするりと下へ降りてきて、片手で尻を掴んで、もう片方の指でまだ柔らかい孔の縁を撫でられる。
「悠壱のだよ?」
「あっ」
そのまま自分から挿れた。
「あぁっ」
腰をくねらせて、そそり勃つペニスを飲み込んでいく。
「あ……ン」
さっきまで実紘を咥え込んでいた身体は嬉しそうにズプリと。
「はぁっ……あっ」
根本まで全部をゆっくり飲み込んだ。
「風呂場とか、部屋で着替える時は真っ赤になるくせに」
「あぁ! そこっ」
「セックスの時は違うの、エロくて最高。自分から気持ちいいとこに擦り付けてさ」
「あ、あ、あっ」
「奥、好き?」
「ん、好きっもっと」
湯が慌ただしく踊ってる。俺が腰をくねらせる度にピシャンと跳ねて。
「あぁぁっ」
声が響いてる。俺の甘ったるい喘ぎ声が。
「エッロ……」
「あぁっ、実紘っ、あ、あっ」
「乳首は?」
「あ、してっ」
「こう?」
「もっと、っ」
「いーよ」
乳首を噛まれて、甘い悲鳴が賑やかな湯音よりも大きく響いた。
そのまま吸われて、肌に噛みつかれるととても気持ちが良かった。
「あ、あ、あ」
俺の、だなんて。
「あぁ、そこ、もっと突いて」
「ん」
「あ、あ、あ、あぁ」
「中、すごいよ、悠壱」
「中に、出して」
俺のなら。実紘の全部が俺のなら。
その小さな顔を両手で包み込むと、じっと見つめ返されて、ドキドキした。
「ん、あ、イクっ」
気持ちいい。もっと、したくなる。
「悠壱」
「あ、イク、イクっ」
「っ」
「あぁ」
「掴まってて」
そこからはもう。
「あ、あ、あぁあぁぁぁぁぁ」
中でイってくれた実紘で満たされながら濡れた髪にもキスして、その睫毛にも口付けて。
「あ……ン」
中に出された実紘の白濁が溢れて、俺の白と一緒にまだ乱れて踊る湯の中に落ちて溶けていった。
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