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第66話 他愛のないデート
帰りの電車の中で、そっと周囲に画面を見られないように注意しながら、スマホを開いた。
そして、つい笑ってしまった。
実紘の写真なら山ほど撮ったけれど、二人で撮ったのは初めてだ。
当たり前だけれど。
カメラマンの俺が被写体である実紘と一緒になんて撮らないだろ。自分が写真に写るのは慣れていなくて、ほら、最初の一枚なんて、恥ずかしくなるくらいに変な顔をしてる。
撮ったのは実紘のスマホだけれど転送してもらったんだ。そして、転送された写真を見て笑ってしまった。
こんなおかしな顔したのか、って。
隣にこれだけ綺麗な顔があるから余計に変に見えるな。
電車に揺られながら、ハリネズミのマフラーをしている実紘の隣で、引き寄せられ顔をくっつけられたことに慌ててるおかしな顔の自分にまた小さく笑った。
他にもたくさん撮った。でもどれもツーショットで撮ったから、ほとんど背景が写っていなくて、あまり代わり映えしない。あぁ、でもこれは猿のところかな。後ろに山が少しだけ見えるから。
本当にたくさん……撮ってきたんだ。
「ミツナ」を。
だから、ここに写っているのが実紘だと実感する。
あどけなくて、屈託がなくて、少し繊細で。
「……」
チラリと自分の右肩へ視線を向けると、綺麗なアッシュカラーに染められた実紘の髪が頬に触れた。
ぐっすりだ。
たくさん歩いたもんな。さすがに身体が資本の実紘も疲れただろ。
スタイルの良さは電車の中で座っていても一目瞭然だ。けれど、電車に乗った途端に俺の肩に寄りかかり俯いて眠ってしまったから、今、ここにいるのが大人気モデルの「ミツナ」だと気がつく人は誰もいない。知ったら大騒ぎだろうな。
電車の中は学生が多かった。平日の夕方、動物園の近くに学校があるんだろう。学生が、授業が退屈だと嘆いたり、友達の話で盛り上がったりしてる。その隣ではサラリーマンがずっとスマホを凝視して、横には中年の女性がたくさんの荷物を膝に抱えて、ずっと窓の外を眺めていた。誰も彼も忙しそうだから、きっとわからないだろ。
ここにいるのがミツナだって。
気にしないだろ。
こうして並んでる俺たちがデートの帰りだなんて。
きっと思いもしないだろうな。このあどけないマフラーに顔を埋めるように居眠りをしている彼がミツナだなんて。
だからそっと鞄の下で手を繋いだ。
「……」
俺もたくさん歩いたからヘトヘトで、そっと手を繋ぎながら、アッシュカラーの実紘の頭に頬を寄せて、そっと、目を閉じた。
「楽しかったね。デート」
「あ……ン」
深くに届く実紘の切先に背中を反らせて甘い声を零した。
「悠壱も楽しかった?」
「あぁっ」
「中がキュンキュンしてる」
なんだろうな。
「そんなに俺の欲しいの? 締め付けすごいんだけど」
「んっ……はぁっ」
ずっと思ってたんだ。
「悠壱?」
ずっと手の届かない遥か高いところに実紘はいるような気がしてた。ずっと。独り占めするのは気が引けてしまうほど、おこがましいと思ってしまうほど、どこか遠く、高いところにいると。
けれど、今日一日一緒に過ごした実紘は高いところにはいなくて、遠くにもいなくて。手を伸ばせばすぐに触れて繋げるところにいた。
動物にはしゃいで、ランチボックスを食べながら他愛のない話をして、各駅停車ののんびりとした電車に揺られて、夕陽のオレンジ色が満杯に注ぎ込まれた車両の中で居眠りをして、どこにでもありそうな、誰もがしていそうなデートにはしゃぐ彼だった。
ほら、今だって。
「実紘」
名前を呼んで手を伸ばすと、覆い被さって俺を抱いてくれていた実紘が少し腕を曲げて身体を寄せてくれた。
「もっと……」
俺の手が届きやすいように。しがみつきやすいように。
「奥まで来て」
そして届いた手でしっかりしがみついた。激しくされても大丈夫なように。奥までちゃんと実紘が来れるように。
「悠壱」
「ああぁっ! あ、あっ、激し、いっ」
「奥、入るよ」
「ん、ぅん……あ、あ、あ」
腰に実紘の指が食い込む。俺が逃げてしまわないようにとしっかり押さえられながら、グッと奥に実紘が入って来て。
「あ、あ、あ、あぁぁあっ!」
一番奥の狭いところを抉じ開けられて、中が実紘を締め付ける。
「っ、悠壱っ」
「あ、あ、あ」
激しく突かれて身体が揺さぶられた。
「実、紘、あっ……あぁっ……ン」
なんだろう。
なんて説明すればいいのだろう。
「もっと、して欲しい」
「悠壱?」
ただ愛しかったんだ。
「どうかし……」
「楽しかった」
そう、すごく楽しかった。
「デート」
無邪気に楽しそうに笑っていた実紘を。
一日歩き回って、電車に乗った瞬間ぐっすりと眠った実紘を。
「楽しかったよ」
そっと内緒で手を繋いだように。
恋しくて、愛しくて。
「実紘」
ただ、ずっと一緒にいたいと思ったんだ。
「悠壱」
「あっ、あっ……」
キツく抱き締められたまま、奥を何度も突かれて爪先まで熱に身体が染まっていく。奥で感じる実紘の体温に染まっていく。
それが心地良くて仕方がない。
「悠壱っ」
「ああぁあっ!」
豪勢なレストランでもなく、お洒落なバーでもなく、あどけないマフラーを嬉しそうに首に巻いて、俺とのツーショットにはしゃぐ彼と。
「実紘」
ずっとこうして一緒にいたいと思ったんだ。
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