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第18話
「待ってよっ! やだっ、やだぁ!」
「大丈夫っ、 落ち着いて」
ガバっと起き上がったら、目の前に知らない綺麗な人がいた。
「怖い夢でも見ちゃったのかな? でももう大丈夫だからね、」
「……ゆ、…ゆめ? …夢、じゃ、ないよ」
あれは夢じゃない。きっとこれから知る現実なんだ。
七央と九条くんが番になる。そして、オレを邪魔だって、一緒にいられないって……。
「うっ、うぅぅ…、ぅええぇぇん」
「あ、そんなに泣かないで? ね?」
やだやだっ、何で?どうして一緒じゃ駄目なの?邪魔なんかしないからっ。
「いっしょ…、いたい、よぉ…、」
「うんうん。そっか。いい子いい子。大丈夫だからね、心配しなくてもいいからね」
優しいその人が、やんわりと肩を抱いて背中を擦ってくれる。
子供みたいに、えんえんと泣くのはいつ振りだろう。でも止まらないんだ。悲しくて、寂しくて…、とても辛い。
「ど、…どうして、 ひっ、」
「あのね。きみは今、初めてのヒートに心が混乱しているんだよ。でも大丈夫。落ち着けばきっと気持ちも楽になるからね」
そういえば、さっき胸が苦しくてオレ、あれからどうしたんだっけ? それにこの人は誰だろう。
「少しは落ち着いたかな?」
「ぐすっ、…あ、ああ、あああの、」
「ゆっくり、ね?」
優しいな、この人。オレの吃音をからかいもしない。それに凄く綺麗だなぁ。
「あの、…す、すみ、すみ、すみま、」
「ううん。いいんだよ、大丈夫」
にっこり笑うともっと綺麗だ。
「はい…。あの、あ、ありがと、ございます」
「どういたしまして」
ちょっと七央に似てる。なんかこう、雰囲気が、だけど。
嫌な感じに高鳴っていた鼓動が漸く落ち着いてきた。
「あの、もしかして。 あの時、声を掛けてくれた方ですか?」
「あ。落ち着いたね。良かった。 はい。僕は中条秋といいます。びっくりしたよ、あんな所に倒れてたから」
「あ、ありがとうございます。 松永理央といいます。 その、ご迷惑おかけしてしまい、すみませんでした」
ううん、いいんだよ、とまた綺麗に笑う。
わぁ…。こんな綺麗な人、見た事ないや。七央は可愛いけど、この人は何ていうか美人?だな。男の人、だよね?
「僕がオメガで良かった。あんな状態のきみをアルファに見つからないで保護出来て、本当に良かった」
「あ、オレ。 …そっか、ヒート」
ちゃんと処置してもらったから大丈夫、と中条さんは教えてくれた。
どうやらここは病院で、オレはヒートの緊急措置入院をしてるらしい。
中条秋さんという親切で綺麗な人は、七央の旅館の宿泊客で、たまたま中庭を散策中にオレを見付けて助けてくれたそうだ。
それからオメガの抑制剤についても色々と教えてくれて、担当医師がやって来た時には、もう薬についての説明はいらない程だった。
どうやら秋さんは大きな製薬会社のご子息で、ご自身も薬学に精通しているんだとか。
それから……。
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