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第28話
こっちに来て、と手を引かれ、ポフンと柔らかいソファに座らされた。
恭しくオレの前に片膝を着いた流星くんは、そっとオレの両手を包むように持ち上げると、蜂蜜色の瞳でじっと見つめてくる。
「ーーーー理央」
名前を呼ばれただけなのに、心臓が飛び跳ねて身体が震える。
何だろう。怖くないのに震えが止まらないよ。
「さっきも言ったけど、俺は理央が好きだ。理央のその素直な性格とか、物怖じしないところとか、いつも前向きなところが大好きだ。変に卑屈にもなんないし、一緒にいて凄く楽しい気分にさせてくれるところも好きだ」
は、恥ずかしい。
嬉しいけど凄く照れくさい。
流星くんがいつもと違ってちっともヘタれない。
「理央は気にしてるのかもしれないけど、そのちっちゃい鼻もそばかすも可愛いって思うし、慌てると吃っちゃうのもなんか放っておけなくなる。そのおっきな眼鏡も理央にはよく似合ってるよ」
「ほ、…ほんと?」
「うん。本当に。 こんなに小さい身体なのに俺、理央が何処にいてもすぐ分かる。だってさ、理央の香りが教えてくれるんだ。ここだよ、って。ここにいるよ、って」
ああ…、どうしよう。
また涙が止まらなくなっちゃう。
「さっき庭で理央を探してる時も、その香りに早く見付けてって言われてる気がしたんだ」
「り、流星くん、…オレ、オレの匂いってどんななの?」
自分じゃ分からないその香りが、本当に流星くんを呼んだのかな。だったら嬉しいな。
「カモミール。小さい理央に似た、可愛くて甘い花の香りだよ」
「す、すずらんじゃなくて?」
七央から時々感じたうっとりする匂いは、すずらんの香りだった。 あれは七央のじゃなかったけど…
「すずらん? それは、兄貴のフェロモンだ。今は殆ど分かんないけどな」
「や、やっぱり? さっきはじめましての時にちょっと思ったんだ。オレがずっと七央のだと思ってたのは、昴さんの香りだったんだね」
「番になるとさ、その。 アルファにその番のオメガの匂いが付くんだって。 でもそれが分かるのは同じオメガ性だけらしいよ」
「へぇ…、そうなんだ」
「逆にオメガには番のアルファの匂いが付くんだ」
「ふぅん。流星くん物知りだね」
だから七央から昴さんの匂いがしたのか。じゃあ昴さんからは、昔何度か感じた七央の香りがするのかな?確かミルクみたいな甘くて懐かし香りだった。
あの頃はその匂いが大好きで、よく七央に引っ付いてクンクンしたっけ。懐かしな。今度昴さんに嗅がせて貰おうかな。
「理央っ!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
懐かしくて物思いに耽っていたら、ぎゅっと両手を握られた。
そ、そうだった!流星くんのお話しの途中だったんだ!
「あ、あのさ。その…、も、もし理央が嫌じゃなかったらさ。 次のヒートの時は一緒に過ごさせて欲しいなっ、…て、思ったんだ、けど」
「ーーーー…え?」
「だ、ダメかな? まだ、早いかな? そ、それとも…、俺じゃ、嫌か?」
あの辛くて苦しくて、悲しかったヒートの記憶が蘇る。
流星くん。オレ、どうしよう。
「やっ、 嫌ならいいんだっ! ご、ごめんなっ、変な事言って! き、気にしなくて…ーー」
「嬉しい…。嬉しいよ、流星くん!」
だってあの時ずっと、流星くんに会いたかった。会いたくて会いたくて、流星くんの事ばっかり考えてた。
「オレね、ヒートの間ずっと流星くんに会いたかったんだ。会ってぎゅうってして欲しかった。何でここにいてくれないのかな、って悲しくて辛かった。あんなのもう、一人じゃ堪えられない。だから、次のヒートの時はずっと側にいて。お願い」
「あ……。 ぅ、うん。うんっ、ずっと側にいるっ!ぎゅうってするっ! い、いいの?」
「オレがお願いしてるんだよ?」
「う…ぁ、そ、そうだよな。うん、うん。 お、俺…、うん! が、がんばる」
「う? うん! がんばれ!」
ん? 何だろう。別に変な事言ってないのに、流星くんは真っ赤になってしまった。可愛いなぁ。こういうとこが本当に好き。
「流星くん。 オレ、もう少し大人になったら、流星くんの番になりたい」
「ふぇ!? あ…、ほんと? 本当に!? 俺の番になってくれる?」
オレの項に、一生消えない流星くんの跡を付けて欲しい。それからお互いの匂いも付け合いたい。
お腹の中が何だかこそばゆい。
「うん、番になりたいです! だからその時は、優しく噛んでね?」
「ふぁ、…ふぁいっ!! 一生優しくしますっ!」
「うん、ありがと流星くん。大好き!」
優しい流星くんはオレに痛い思いなんて絶対させないよね。 信じてるよ!
ーーーーEND
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