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後編
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高校を卒業してから十年という月日が流れ、俺は大学を卒業しメーカーに勤務していた。
そんなある日、俺たちの再会は突然やってきた。
「駿……会いたかったよ」
「想!」
想は高校時代の面影を色濃く残した顔で、取引先の相手として突然現れた。
目を見開いて驚いた後、嬉しそうに微笑んだ顔は、俺が好きだったお前のままだ。
東京のど真ん中で、俺はまたお前に恋をする!
何度でも恋をする!
その日の夜、想をバーに誘った。
「えっ、駿は……結婚したのか」
偶然の再会を祝ってグラスを傾けた時、想の視線は俺の左手薬指で停止した。
「これ? 違うよ。勝手にしているだけ」
「ど、どうして?」
「想の席を取って置いた」
「えっ、本当に……それって……嬉しいよ」
嬉しい? その言葉に勇気をもらった。
十年ぶりの告白は、深呼吸してさり気なく。
「想……今なら良い返事をもらえそうか」
すぐに想は耳を真っ赤にして、コクンと頷いてくれた。
あぁ、ようやく実る俺の初恋!
幸せだ!
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駿との再会は偶然で、僕は興奮気味にグラスを傾けた。
ところが彼の手元に指輪を見つけた途端、再会を祝う場は突如暗転してしまった。
「どうした?」
「あの……それって」
駿は昔から僕の顔色をよく見てくれた。だから、すぐに僕の不安を察してくれた。
変わらぬ笑顔で「僕の席」だと教えてもらえて安堵した。
駿は離れていた十年をかけて、僕の想いを育てた相手だ。そんな駿が今でも僕を想ってくれていたなんて……嬉し過ぎて、うまく声が出せないよ。
あの日の告白の返事は『Yes!』
遅くなってごめん。まだ間に合うか。
「想……俺……とても幸せだ」
「幸せなのは、僕の方だよ」
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その日から俺たちは付き合いだした。
十年間の空白を埋めるように、丁寧に毎日を過ごした。
三年後、俺たちは三十歳を迎えるのを機に、もう一歩踏み出すことになった。
「駿、ここに置いてあった指輪を知らない?」
「え?」
「ほら、文化祭の時の……」
あんなおもちゃの指輪をずっと持っていてくれたなんて、驚いた。
「さぁ?」
「困ったな。どこに行ったのかな?」
さてと、ポケットの中に忍ばせた小さな箱を、どのタイミングで出すべきか。
あぁ、緊張するよ。
あの日のように笑顔で受け取ってもらえますように!
***
「あのさ、俺……ずっとお前と一緒に生きていきたい」
唐突に駿から降って来た言葉に驚いて顔をあげると、視界がぼやけた。
思いの丈がこもった抱擁の後、手の平に小さな箱が置かれた。
「もうなくすなよ」
「あ……これって……うん!」
あの日と同じ笑顔に、すれ違った二人がようやくここに戻ってきたのを知った。
「想……泣くなよ」
そう言われても溢れる涙は止まらない。あの日結べなかった恋が、実る日が来るなんて。
「俺はずっと後悔していた。あの日を取り消したいと」
「いや、あの日がなかったら今日は来なかった。僕こそ、遠回りしてごめん」
そう告げた途端、駿に抱きしめられた。
君の身体は十年分逞しくなっていた。
その日から僕らの世界は、二人の世界になった。
寒い冬も暖かく、もどかしかった電車の中も、幸せ色になっていた。
それは手を繋ぎたくなる程の寒い日のことだった。
電車に溢れるのは、振り袖姿の女の子達。
「今日は成人式か、懐かしいね」
目映い程の誰もが目で追ってしまう鮮やかさ。
隣にいる駿だって、きっとそう思っているだろう。
これは敵わないなと……少しだけ後向きな気持ちになっていると、駿がスーツ姿の僕をじっと見つめてくる。
「どうした? ……モノトーンでつまらないだろう?」
「いや、全然。想の色がいい!」
「て……照れるよ」
「俺たちは、永遠に初恋を続けていくんだから、いいよな」
「も、もう――」
『初恋』は、最初の恋だけじゃない。
僕たちにとって、いつも新鮮な恋のことだ。
僕らは、今も初恋、この先も初恋を続けていく。
コートの下で手を握りあって、僕らの場所を作りあった。
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