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後編

****  高校を卒業してから十年という月日が流れ、俺は大学を卒業しメーカーに勤務していた。  そんなある日、俺たちの再会は突然やってきた。 「駿……会いたかったよ」 「想!」  想は高校時代の面影を色濃く残した顔で、取引先の相手として突然現れた。  目を見開いて驚いた後、嬉しそうに微笑んだ顔は、俺が好きだったお前のままだ。  東京のど真ん中で、俺はまたお前に恋をする!   何度でも恋をする!  その日の夜、想をバーに誘った。 「えっ、駿は……結婚したのか」  偶然の再会を祝ってグラスを傾けた時、想の視線は俺の左手薬指で停止した。 「これ? 違うよ。勝手にしているだけ」 「ど、どうして?」 「想の席を取って置いた」 「えっ、本当に……それって……嬉しいよ」    嬉しい? その言葉に勇気をもらった。    十年ぶりの告白は、深呼吸してさり気なく。 「想……今なら良い返事をもらえそうか」  すぐに想は耳を真っ赤にして、コクンと頷いてくれた。    あぁ、ようやく実る俺の初恋!    幸せだ! ****  駿との再会は偶然で、僕は興奮気味にグラスを傾けた。  ところが彼の手元に指輪を見つけた途端、再会を祝う場は突如暗転してしまった。 「どうした?」 「あの……それって」  駿は昔から僕の顔色をよく見てくれた。だから、すぐに僕の不安を察してくれた。  変わらぬ笑顔で「僕の席」だと教えてもらえて安堵した。  駿は離れていた十年をかけて、僕の想いを育てた相手だ。そんな駿が今でも僕を想ってくれていたなんて……嬉し過ぎて、うまく声が出せないよ。  あの日の告白の返事は『Yes!』  遅くなってごめん。まだ間に合うか。 「想……俺……とても幸せだ」 「幸せなのは、僕の方だよ」 ****  その日から俺たちは付き合いだした。  十年間の空白を埋めるように、丁寧に毎日を過ごした。  三年後、俺たちは三十歳を迎えるのを機に、もう一歩踏み出すことになった。 「駿、ここに置いてあった指輪を知らない?」 「え?」 「ほら、文化祭の時の……」  あんなおもちゃの指輪をずっと持っていてくれたなんて、驚いた。 「さぁ?」 「困ったな。どこに行ったのかな?」  さてと、ポケットの中に忍ばせた小さな箱を、どのタイミングで出すべきか。  あぁ、緊張するよ。  あの日のように笑顔で受け取ってもらえますように! *** 「あのさ、俺……ずっとお前と一緒に生きていきたい」  唐突に駿から降って来た言葉に驚いて顔をあげると、視界がぼやけた。  思いの丈がこもった抱擁の後、手の平に小さな箱が置かれた。 「もうなくすなよ」 「あ……これって……うん!」  あの日と同じ笑顔に、すれ違った二人がようやくここに戻ってきたのを知った。 「想……泣くなよ」  そう言われても溢れる涙は止まらない。あの日結べなかった恋が、実る日が来るなんて。 「俺はずっと後悔していた。あの日を取り消したいと」 「いや、あの日がなかったら今日は来なかった。僕こそ、遠回りしてごめん」  そう告げた途端、駿に抱きしめられた。  君の身体は十年分逞しくなっていた。  その日から僕らの世界は、二人の世界になった。  寒い冬も暖かく、もどかしかった電車の中も、幸せ色になっていた。  それは手を繋ぎたくなる程の寒い日のことだった。  電車に溢れるのは、振り袖姿の女の子達。 「今日は成人式か、懐かしいね」  目映い程の誰もが目で追ってしまう鮮やかさ。  隣にいる駿だって、きっとそう思っているだろう。  これは敵わないなと……少しだけ後向きな気持ちになっていると、駿がスーツ姿の僕をじっと見つめてくる。 「どうした? ……モノトーンでつまらないだろう?」 「いや、全然。想の色がいい!」 「て……照れるよ」 「俺たちは、永遠に初恋を続けていくんだから、いいよな」 「も、もう――」 『初恋』は、最初の恋だけじゃない。    僕たちにとって、いつも新鮮な恋のことだ。  僕らは、今も初恋、この先も初恋を続けていく。  コートの下で手を握りあって、僕らの場所を作りあった。              

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