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ep.1

三住(みすみ)は悪夢を見た。  それは俗に言う丑三つ時。  突然襲われた金縛りに冷や汗が止まらず体も言う事を利かない。唯一動いた目を開けると、体の上に黒い人影が胡座をかいて乗っていた。 ─黒い人影は自分を悪魔だと名乗った。 「貴方最近念の強い女フッたでしょ? 生きてる人間に呼び出されるなんて何百年振りの事だか。人間の執念とは実に恐ろしい」  飄々と語る悪魔に、現段階の恐怖も理解してくれと嘆きながらも影から視線を外す事が出来ない。 「─で。貴方に呪いをかけました。 貴方は人生で想定外の相手に恋をします。その恋が実らない限りこの呪いは解けません。でも安心して下さい。その相手からの接吻(くちづけ)により、この呪いは解けます ─そうすれば貴方の恋も醒めます─」  そう言い残して悪魔は姿を消した。  気がつくと、既に部屋は眩しい朝日に包まれていた。 「あんなの夢だよな、ナイナイ、この世に悪魔なんて」  鼻で軽く笑いながら学校内の廊下の角に来た瞬間、前方不注意な誰かと思い切りぶつかった。  相手を見た途端、三住は強く眉間に皺を寄せた。 「ゲッ、三住」  ぶつかってきた頭一つ分小さな男は、三住と同じように眉間に皺を寄せ、謝るどころか嫌なのに当たったと言わんばかりに、こちらを見上げていた。 「よぉ、補欠合格の桜庭(さくらば)。今のゲッて何?」  わざと身長差をアピールように背中を反りながら桜庭を見下ろす。 「また始まった。二年もよく同じネタ引っ張れるよな、お前。マジ粘質」  桜庭は舌を出しながら顔を背ける。 「ああ?!」 「ごめんごめん、三住。悪かったな、大丈夫か?」  隣にいた同級生の時田(ときた)は必死で代わりに謝罪しているのに対し、当の本人は不機嫌なままだ。  相変わらず可愛げのないチビだと更に桜庭を睨みつける。 「前を見てなかったのはお前だろ? ちゃんと謝れよ」  三住の正論に、ゆっくりと桜庭は視線を戻し、じとっとした反省のない瞳で面倒そうに短く息を吐いた。 「わかった。謝るよ…」  両手の指を組み、口元に添え、上目遣いで眉を悲しげに下げながら首を傾げる。そして猫撫で声で一言。 「ごめんね?」  誰が見ても呆れる程臭いその芝居は、益々火に油ではないかと時田の頭を痛めた。  だが、三住はピクリとも動かなくなってしまった。  三住の喉から「ヒュッ」と息を呑むような異音が漏れる。  余りの怒りに硬直してしまったのだろうかと、訝しげに桜庭は顔を覗き込もうとゆっくり寄ろうとした瞬間、アニメのキャラクターのように足をくるくると高速回転させ、砂煙と共に叫びながら三住は姿を消した。 「何あいつ…どこのギャクアニメだよ…」

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