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恋と自覚するまで…①
※お立ち寄り頂きありがとうございます。このお話は『純情Ωの願いごと』の裏側、流星サイドの物語となってます。
本編13話で理央が逃げ出した後、残された流星と七央のやり取りから始まります。
それではどうぞ……
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待って待って…。
どこ行くんだよ、理央っ!
「やーだよっ! 仲直りしたらって、言っただろ! 付いてくんな!」
「理央っ! 待て、って」
走り去る小さな背中を追いかけようと、踏み出した途端に腕を掴まれた。
「おいっ、離せよっ!」
「理央が来るなって言ってるんだ! やめておけっ」
小さな背中がどんどん小さくなっていく。今ならまだ追い付く。まだ間に合う。そう思うのに、それを引き止められかなり焦る。
「何でだよ! 理央に誤解されたままなんて、そんなの嫌だ!」
「何の誤解だよ!?」
何の…って。
「決まってんだろ? 俺と七央が…、って…、あ、あれ?」
そういや、誤解…って何だ?
「何なのお前、自覚もないの?」
「え…? …と、」
目の前で大きな溜息をつかれ、自分が何か大事な事を失念しているのを感じる。
あれ?俺は確か、この妙に小綺麗なオメガの七央に会いに来てて…。なのに今、逃げるように去ってしまった理央を追いかけようとしてる訳で…。……って、え? 何でだっけ?
「ああっ、もお! ちょっとこっちに来い!」
「へ? あ?」
ジャケットの背中を掴まれ、グイグイ引っ張られてあまり人気のない中庭に連れてこられた。ベンチを指差し『座れ!』と命令され、その有無を言わさぬ圧力に屈し、素直にそこに腰を掛けた。
俺の前に腕組して仁王立ちする七央に見下され、何故だかちょっと萎縮してしまう。おかしい…。そもそも俺はアルファだぞ?それも血統書付きの上位種だ。…なのに何でこんなにもビクつかなければならないんだ?大体こいつはオメガのくせに、何でアルファの俺をビビらせるのか。そこが一番謎だ。
「おい、ポンコツ」
ほらな…。いつだってこの扱いだ。そりゃ俺だって自覚はあるよ?けどさ、今までこうもあからさまに威圧感丸出しで、さも説教するから覚悟しろ、的な態度を見せられたのは家族以外じゃ初めてだ。……しかもオメガなのに。
こんなおっかないオメガは他に知らないぞ。俺の知ってるオメガはみんな、控えめで優しくて中身の可愛い子ばっかりだった。なのにこの七央ときたらどうだ?最初からツンと澄まして、人を小馬鹿にしたような態度を隠しもしない。今だって、俺を見下ろすその瞳に映るのは呆れや侮蔑に似たそれだ。
「お前、本当に分からないの?」
ーーー…は?
「なに…が?」
う…、何この威圧感。凍てつく氷の様なオーラがホント怖い。俺…、こいつの何にあんなに惹かれてたんだっけ?
ああ、そうだ。あの甘い香り…。カモミールみたいな優しくて甘い花の匂いだ。あれが俺の心を鷲掴んだんだ。
あのパーティ会場で初めてあの匂いに出会って、ビビッときたんだ。あんな感覚は初めてで、俺はすぐに確信した。
ーーー運命がいる。…って。
だけど広い会場では中々見つけられなくて、その内その匂いも薄れて消えてしまった。もう帰っちゃったのかとガッカリして諦めて、用意されてた奥のサロンへ下がろうとしてた時に、小柄な二人組が目に入った。
大きな黒ぶちの眼鏡をかけた小さな子供の様な背中に、それを隠す様にベッタリと引っ付く小綺麗な男。ひと目見てこの二人も疲れているのだと分かった。特に引っ付かれている眼鏡のおチビは、今にも崩れそうな程フラフラで、放っておくなんて出来なかった。だから声を掛けてサロンに誘った。ちょっと休んでいけば?…くらいの軽い感覚で。
それからお茶を飲みながら、当たり障りのない話しをして、突然理央が慌てふためいて大騒ぎし始めて、そしたら急にまたあのカモミールがふわふわ香ってきて、それで…、それが七央のフェロモン…だと…、思って……
「て、あ…? え…? あれ?」
そういえば、こんなに近くに七央がいるのに、あの花の香りがしない。いつもは離れた場所からだってあんなにはっきり分かるのに…。
ガバッと立ち上がり、七央の肩を掴んだ。
「お、おいっ! 何をする!?」
暴れまくるのも構わずその首元に鼻を寄せて、クンクンと嗅ぎまくった。
「やめろっ、気色悪いっ!」
「ーーーー……しない」
なんで??
あのクラクラするほどのいい匂いが、まったくしない。
「何で……? え…、あ!! まさか!?」
「おいコラッ!! 離せっ!」
後頭部をグイグイ押さえて頭を下げさせ項を確かめた。
「ーーー……ない、…か」
もしかして、そこに歯型や噛み跡が?…と思ったがそれもなかった。
誰かの番になった訳でもなさそうだ。
そんな事を考えていたら、いきなり鳩尾に激痛が走る。
「ぐぇッッ!」
「離せと言っただろ…っ!」
強烈な腹パンを受けて涙目になる。い…痛いし、苦しい…っ。
殴られた腹を抱えて恨みがましく七央を見ると、そこにはキンキンに冷え切ったブリザードのようなオーラを纏った夜叉がいた。
「ヒ……ィッ」
「おい、流星…。お前、本当に九条家のアルファか? それでも恒星さんや昴さんの弟なのか? いい加減分かるだろ。僕がオメガじゃないって事くらい」
「や…やっぱり? 何かおかしいと思った」
だよな…。薄々変だとは思っていた。どう見てもこのオーラはアルファのものだ。それもかなり上位種のもの。俺じゃなかったらきっとチビってる。それくらい激おこオーラだ。
「何で騙したんだよ…。アルファならアルファらしくしてろよ」
「騙してない。お前が勝手に勘違いしただけだ」
この言い草っ!嘘つきの常套句だ!
「ひ、否定しなかっただろ! 全部俺が悪いみたいに言うなっ」
「肯定もしてない。大体、確かめもしなかったお前が悪いんだろ」
何この、悪徳商法みたいな返し!
「だからって、黙ってるのは卑怯だぞっ。そのせいで、理央に誤解され……っ、……ぁ、」
そうだった…。
『二人共、凄くお似合いだと思うよ』
そう言った時の理央の顔が、何だか凄く寂しそうだった。そんな事言われても、嬉しいとも思わなかった。むしろ、そんな事言わないで…って思った。
理央にはいつだって、ニコニコと笑ってて欲しいんだ。
「七央より…、理央の方が、よっぽど可愛げがあるよな」
「当たり前だ。 理央はこの世で一番可愛いくて、一番綺麗で、一番純粋なんだ。そんな可愛い理央を、流星なんかに会わせた僕が間違ってた」
「ーー…ん? え?」
「やっぱりお前なんかじゃ駄目だ。いいか、もう二度と理央には近付くなよ」
「ちょ…っと待て。 会わせた…って、どういう事だ?」
「お前には関係ないだろ」
「いや、関係大アリだろっ! だ…、大体何で、兄さん達の事を七央が知ってるんだ?」
そうだ。さっきは夜叉オーラにビビってスルーしたけど、こいつの口から二人の兄の名が出てきた。
「あのさぁ……、はぁ……」
頭が痛いと言わんばかりに、額に手を当て頭を振りながら大きな溜息を吐く七央。そんなに呆れないでもいいじゃないか。分からないから教えて欲しいのに、ホントこいつ意地悪だ。さっきから気になるワードばっかり思わせ振りに出すくせに、肝心の答えはちっとも教えてくれない。
それにもっと気になる事も言われた。
『理央はこの世で一番可愛いくて、一番綺麗で、一番純粋なんだ』
何だよそれ。それじゃまるで、理央は自分のものみたいな言い方じゃないか。
俺だって知ってる。そりゃ、まだ知り合ってほんの数ヶ月しか経ってないし、会ったのだってまだ両手で数える程度だけど、それでも理央が素直で純粋で真っ直ぐな子だって事くらい分かってる。
一緒にいると楽しくて、なんかホッと出来て、飾らなくてもいいんだ、って自然でいられるんだ。あんないい奴なかなかいない。少なくとも俺の周りには理央みたいな子はいなかった。気のおけない仲間ならいるけど、それは皆アルファの同種で対等だから。
九条って名前だけを目当てに近付かれたり、見た目につられて勝手に夢見られたり、理想を押し付けてそうじゃないって分かると手のひら返されたり、謙ってやたら緊張されたり、おべっか使われたり…。
けど…、理央はそういうの、最初から全然なかった。いつだって素直に自分の言いたい事ははっきりと言ったし、九条のアルファだからって怖がったりもなかった。緊張もしなけりゃ卑屈にもならない。何ならちょっと説教だってしてくる。
小さくて生意気で可愛いくて、見てるだけでも楽しいし、話をすればもっと楽しい。ずっと仲良くしていたい。もっと仲良くなりたい。俺…、俺は……
「俺は……理央が好きだ」
「ーーはぁ…?」
そうか、俺…。理央が好きなんだ。
そう思ったら急に恥ずかしくなった。カァーッと顔に熱が籠もり、頭が沸騰したみたいに熱くなる。
うわっ、うわぁーーっ!
何これ、何だコレ!?
胸がウズウズして心臓がバクバクして背中がゾクゾクする。なんかじっとしていられない。
思わずしゃがみ込んで頭を抱えた。
「おい…。気色悪いオーラを撒くなっ!」
「どうしよっ!俺っ、俺……っ!」
「今更だろ…。お前、本当に気付いてなかったのか?」
「し…っ、知らないよ! こんなのっ、こ…こんな」
「何それ? もしかしてお前…、初恋?」
「わああぁぁっ!! い、言うなっ!」
知らない知らないっ!
こんな気持ち知らないっ!!
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