1 / 13

第1話 馴れ初め

 困る。 「兄ちゃん、好き」  白い野球のユニフォーム姿で玄関に座った彼が、僕の膝をぎゅ、と掴んだ。  ひたむきな眸にまっすぐ射抜かれる。 「今日ホームラン打ったら、ハンバーグ食べてもいい?」  初めての告白は、十二歳になり、少年野球で四番を任された彼が出かけていく寸前に起こった。  唐突なそれに、僕は意味をはかりかねていたが。 「いいよ。頑張っておいで」  それとなく促すと、太陽のような笑みが返ってきた。  彼が家にきて半年が過ぎた頃だった。離婚した兄の海外赴任をきっかけに、僕と同居しはじめた兄の子どもの彼が、初めて笑うようになった矢先のことだ。  僕は本の虫で運動も不得意だったから、彼の伸びやかな四肢が眩しかった。

ともだちにシェアしよう!