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第13話 きみとした恋

「俺、兄さんが好きだよ。こんなにいい人いないと思うし。俺のこと、ずっと見捨てずにいてくれたし。でも、それだけじゃない」  次に彼が話しかけてきたのは、清算したタクシーが帰ったあとの家の前だった。ふらつく僕を支え、大きなスーツケースを反対側に持ち、鍵を開ける。 「……きみの言うことが本当なのか、帰ったら兄に電話する」  僕が強がると、彼は静かに「いいよ」言った。  その時、僕は初めて生きていて良かった、と思った。 「兄さん。兄さんの初恋は、誰だったのかな」  抑えようのない衝動が、身体の奧で弾けて疼く。  きみへの恋情があふれすぎて、玄関を入ったらすぐにへたり込んでしまいそうだった。  だけど、僕にも年上の矜持があるから、回りすぎたアルコールのせいにしよう。 「僕の、初恋は──……」  =終=

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