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第12話 初恋
「ど、して……」
「ん……?」
「僕がどうしようもない人間だってことは、もう気付いているだろう? 僕が、一族の中でも出来の悪い、出来損ないの不良品だってことは。だからきみの世話を任されたんだ。だから僕は……」
心にもない言葉が溢れてきた。
けど、彼は握った僕の手を、離そうとしない。
「帰ってから話そうと思ったんだけど、実は俺、父さんの子どもじゃないんだ」
「は……?」
流れる車窓を見ながら、静かに彼は告白しはじめた。
「「は?」だよね。まさに。母さんが浮気相手との間にもうけた子どもなんだって。アメリカで遺伝子検査したら、それがはっきりした。どうして父さんが俺を引き取る気になったのか聞いたら、親友の子どもかもしれなかったから、だってさ。渡すわけにいくかって、思ったみたい」
「そ、れって……」
「だから俺、父さんとも兄さんとも、血が繋がってないんだよ。なのに、兄さんは俺を文句ひとつ言わずに育ててくれた。こんな俺を……」
「じゃ、僕は……」
騙されていたのか。
その言葉が脳裏を過ぎった瞬間、鳩尾の奧からわけのわからない悦びに近い想いが湧き上がってきた。彼は「知ってると思うけど」と付け加えた。
「俺の初恋、兄さんなんだよね」
タクシーを降りるまで、会話は途切れた。
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