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第11話 好きだよ
吐きそうかどうか確かめられてから、タクシーに揺られて家に戻ることになった。
「兄さんが入れてるスマホのアプリ、俺が要求すると、位置情報発信するようになってるんだ。よく迷子になるから、ちょうど良かった」
そう呟く声は、もう十三歳の不安定なそれではなかった。
「何で……」
「それは俺の台詞だけど。なんで兄さん、こんなことになってるの?」
「きみに関係ないだろ……! 大人のやることに……っ」
口出しするな、と僕は初めて彼を詰ろうとした。
「俺がいないと、そんなに寂しい? 俺がいないと、味のしない食事、美味しくない? ……正直、俺にはその方が都合がいいけれど」
大人になった彼は、そんな皮肉を言いながら、僕の手を握った。
彼がいなくたって、僕はちゃんとした大人だ。わきまえていて、強くて、正しくて、到底かなわないような、聡明な。
「兄さん。俺は……兄さんが好きだよ」
何年ぶりだろう。
その言葉を待ち望んでいた自分に、震えるほど失望する。
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