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第10話 孤独の味

 困った性癖を持った僕は、自堕落に没頭できる環境を得たことを、最初は喜んでいた。  しかしすぐそれが空元気に過ぎないことを知った。  彼は十年かけて、僕の世界を彼なしでは回らないように、巧みにつくり変えてしまった。  朝食の目玉焼きを二つ作ってしまう。  いってきます、と言いそうになる。  帰りに、何か買ってくるものはないか、連絡しようとして、ひとりだと気づく。  自然、家に帰るのが億劫になり、夏休みも佳境に入ると、ますますそれは酷くなった。  そして現実から逃げるように、僕はつかの間、酒と男に溺れた。  スカイラウンジでナンパされた同年代の男性と飲んでいると、いきなり彼が現れた。 「兄さん」  夏休みの最後の日だった。僕は相当酔っていたけれど、彼の顔だけは判別できた。 「今日、帰国するって連絡したんだけど、返事がないから探したよ」 「どうして……」  ここに僕がいることを、なぜ知っているのか。その方が問題だった。 「話はあと。帰ろう。すみません、兄を回収しにきました。失礼します」  彼は狼狽した僕よりも大人な態度で、隣に座る男性に頭を下げると、酔って足元が危うい僕を支えた。  もう保護を必要とするような、頼りなさはなかった。

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