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第9話 張り子の虎
「兄さん、俺、夏休みに父さんのとこに行ってこようと思うんだけど」
大学に進んだ彼は、学生起業家となり、幾つかのアプリの開発を成功させ、僕の給料よりも金を稼いでいた。
もう、僕を見ても、見捨てられそうな表情をすることはなくなっていた。
「この間、電話した時に、きてもいいって言われたから」
「そうか。なら行くといい。気をつけてな」
「うん。……兄さんこそ、俺のいない間も、ちゃんと食べないと駄目だよ」
僕は苦笑し、あえて強がりを言った。もっとも、こんな張り子の虎などに、もう彼は臆したりはしないだろう。
「当然だ。言われなくとも大人なんだ。ちゃんとできるよ」
「ならいいんだけど」
僕の前で「好き」と言わなくなった彼は、もう守るべき弱き存在ではなかった。
世界の広さを知ったら、きっと彼はもっと変わる。
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