8 / 13

第8話 烙印

 いつから、彼は僕に生活の全てを報告しなくなったのだろう。  高校教師をしている僕の姿を、彼もまたあざ笑っているのだろうか。  食事は相変わらず味がしなかった。  それでも彼のために分量を測り、作り続けた。半ば意地だった。僕は、一族の温情で私立高校の教師をしている、ただの二十八歳の男だ。結婚どころか浮いた話のひとつもない、うだつの上がらない男だ。  しかも、女性を抱くことができない。  ずっと隠し続けてきた性癖が、少しずつ腐ってゆくのを知っていた。  それが崩れゆくのを長い間、願っていた。  僕は出来損ないだ。  生まれてこなかった方が良かった人間だった。

ともだちにシェアしよう!