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第1話

 なんでこの話になったんだっけ。  突然の大雨に立ち往生していた俺は、偶然通りかかった三浦の車に乗せてもらえてラッキーだったのはいいんだけど、さっきからずっと「運命の相手」とやらの話を聞かされて辟易していた。  大学の合格発表の時に見かけたのが最初の出会いだというから、二年も前から好きだったことになる。緊張しているのか時々言葉につまりながら、いま、その「運命の相手」がいかに可愛かったかを滔々と述べている。  そんな人が居たなんてちっとも知らなくて、びっくりした。  俺は相槌を打つのも辛くなって、フロントガラスの端にこびりついた雨粒が隣の雨粒とくっついて膨れ上がっては流れ落ちていく様を、見るとはなしに見ていた。  三浦は俺と同じゼミで、たまに飲みに行ったり遊びに行ったりする、まあ普通の友達だ。  それがついこの間、うっかりキスをした。  お互いに酔っ払っていて、終電に乗り損ねた俺をマンションに泊めてくれることになった真夜中のことだった。電気を消した暗い部屋で突然俺の眼をまじまじと覗き込んだ三浦は、「凌の目って綺麗だよな」と突然言い出した。 「ビー玉みたい。っていうか、うちの実家の猫みたい」 「は?」  猫っぽいとは、まあよく言われる。  髪は茶色で猫っ毛だし、普段はカラーコンタクトをしているがそれを外しても眼の色素が薄い。それにしても実家の猫とは。 「トラ吉と一緒かよ」 「あ、名前おぼえてくれてる!」  嬉しそうにくしゃっと笑った、その無防備とも言える笑顔に一瞬見とれた。

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