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第23話
「はぁ!?!?」
「だって前から約束してたもん。ねー?」
「ねー。夕方までには返すからさ?」
「お前それをわかってて泊まりに来たな!?」
朝から柴崎とひと悶着あったが、先月から約束していた旭とのデートをする日である。
本当は着替えをもって泊まりに行きたかったのだが、そんな気力もないままお邪魔してしまったのだ。
「そもそも大林もわすれてたでしょ。」
「覚えてたら前日に売りなんてしてないですね。」
「クソビッチが…旭に悪い影響もたらしたら絶対に許さんからな!?」
「へいへーい。」
旭が喧嘩が始まるのではとおろおろしている傍らで、大林は歯牙にもかけずにマイペースにスマホで調べ物中だ。
ゆっくりと寝れたということもあるが、いろいろ吐き出せたのですっきりともしている。
久しぶりに心の中の淀みがなく、気分的にも楽だった。
「んでどこいく?」
「んー、旭は行きたいとこあんの?」
「チョコレートでも見に行こうかなって。」
「チョコレート?」
門限1900を渋々と飲み込んだ旭は、最後までムッとしている柴崎に、バレンタインのチョコレート買いに行くんだからお留守番してて!と、こそりと伝えた途端にご機嫌になり見送ってくれた。
非常に欲に忠実な柴崎は扱いやすく、夜以外は割と手の上で転がしている。
柴崎自身もよっぽどのことがない限りは喜んで転がりまくっているので、どっちもどっちだ。
解せぬのは、恋人のわがままを叶えるのが男の手腕の見せ所だとか言う割に、絆す前の駄々をこねるような自分の発言は棚にぶん投げている部分くらいだ。
「賄賂にしようかなって。」
「おまえも大変だな…」
「へへへ…」
それを思い出して遠い目をする旭に、大林はよしよしと頭を撫でてくれる。昨日とは立場が逆転していてなんだか笑えた。
「いっこおもいついたんだけどさ」
「ん?」
チョコレート、チョコレートかぁ…と思案するように呟いていた大林が、なにか思いついたように口を開いた。
「せっかくなら、つくらねぇ?」
「え?」
「や、男二人で買いに行くのしょっぱくね?」
「た、たしかに…」
ネット通販で買うことも頭がよぎったが、柴崎のぶすくれた顔を思い浮かべると面倒な結果にしかならなさそうだった。
「でも俺作ったことないよ?」
「俺料理すきだし教えれる、材料買って俺んちで作ろ。」
「大林そんなハイスペックだったの!?」
「たまに失礼だよなお前」
男二人でスイーツ作りも大概にしょっぱいのだが、今は2/11だ。チョコレートを探しに行ったところで気圧されて帰ってくる未来しかない。
かくして、旭と大林はバレンタインのチョコレート作りに励むべく、まずは作戦会議とばかりに駅前のカフェへ入ることにした。
店内も時期柄チョコレートをつかったスイーツを展示しており、大林も旭も、普段頼まないホットチョコレートをなんとなく流されるように注文した。
「大林もあげるんでしょ?」
「……きもくないかな?」
「きもくないよ!というか貰えないやつだっているんだから!」
「もてない男を敵に回すからやめなさい。」
あわわ、と慌てて口を塞いだが、旭からしてみたら大林がなぜそんなに遠慮するのかがわからなかった。
「だってキスしたことあるんだよね?」
「キスってか、口舐められたくらい…」
「キスよかえっちじゃん!!」
「おまえはほんとにもー!」
やかましいんだよさっきから!と顔を赤らめてスパンと頭を叩かれる。多分今の衝撃でシナプスが数万単位で死滅したのではと思うくらい良い音がした。
「ふぐ、だったらあげちゃえばいいじゃん…むしろ捧げればいいじゃん体にチョコレートまとわせてさぁ…」
「衛生的に却下だな。」
「マジレスなんだよなぁ…」
ホットチョコレートを飲みながらフリック入力をする手元を見やる。
ちらりと目に入った検索履歴に、年上の男性に送るギフトやら、大人の男性が喜ぶチョコレート、などと乙女のような内容が表示されており、それをなんだかんだ調べた大林が可愛くて、おもわずによによした。
「ふふふ、大林かわゆ…」
「やめろみるなァ!」
「しー、しー!」
「うぐぐく…」
先程と逆転した立場に苦虫をかみ潰すかのような顔をした。大林はクールそうだが割と表情豊かである。
「手が込みすぎると見返りを求めてるみたいになりそうだし、」
「ならトリュフとかは?確か丸めるだけだよね?」
「生クリームとか混ぜるけどな?でもありだな。」
チョコレート固めて丸くするだけではできないのか、と表情にでていたのか、大林から白けた目で見られた。
「めちゃいいチョコ買って、お酒買って混ぜる!」
「採用。」
「おっし!!」
まさか男に生まれてバレンタインを作る側の気持ちを味わうことになるとは思わなかった。
大林も同じだったようで、なんかどっちにしろしょっぱくね?などと照れ隠しをしながらも満更ではなさそうである。
最終的にウキウキした旭が、提案したくせに恥じらう大林に対して言った、買うより安い!という言葉で落としどころを見つけたのか、微妙な顔をしながら頷いた。
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