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第7話

ジュリアスを信じたいが正直怖かった。 また、こんなふうに裏切られるんじゃないか、と。 まだぼんやりする頭で考える。 「……俺はジュリアスが好きだ」 「できればそこは『俺も』にしてほしいんだけど」 外野(ほんとは違うが)は無視して話を続ける。 「最初付き合い始めたときは本当に嬉しかった」 「え、本当にっ!?」 (そこ、驚くところか) 「だけど周りの奴らにいろいろ言われて、少し考えるようになって」 視線をずらし、飾り棚のアンティークの置物を何とはなしに見る。 「やっぱり俺みたいな平民じゃ、だめなのかと」 だから愛人でもいいからそばにいたかった、と続けると、沈黙があった。 (やっぱりイヤになったか) ジュリアスにはこんなめめしい相手よりずっと相応しい相手が──。 「ごめん。やっぱり今押し倒していい?」 「……は?」 構わないが未成年はイヤなんじゃなかったのか、と問い掛けたようとしたときだ。 「何でこんなにかわいくなっちゃたのかなあ」 (は?) 理解できない単語があったような気がする。 「まさか気付いてない? 君、前よりもずっと美人さんになってるよ」 「はあぁっ!?」 確かに以前より肌の色は薄くなったとは思うが、思い当たるのはそれ位だ。 (こちらの言葉には痘痕もえくぼとかいうものがあったな) 遠い目になっていると、 「それじゃあ、両思いってことでいいんだね」 「……無理だ」 「どうしてっ!?」 「確かに俺はジュリアスのことが好きだが、またこんなことがあったら、自分を抑える自信がない」 (嫌われたくない) だけど話さなければ納得しないだろう。 「どういう意味?」 「……あの時、カイネを突き飛ばしそうになった」 本音を言うとそれだけじゃない。 カイネを突き飛ばしたら、ジュリアスに抱き付いてあの約束を忘れたのか、となじりそうになったのだ。 (あんな醜い衝動はもう二度と味わいたくない) 「……」 ふふっ、と笑い声がして顔を上げると何故か笑み崩れた、とでも表現したらいいのか、というレベルのジュリアスがいた。 (え、何だこれ) 「それって、嫉妬?」 ぎゅっ、と抱き締められた。 「……だったらどうなんだ」 というか、何でこうなっているのか全く分からない。 「ふうん。そうなんだ」 (力強いっ、って何なんだっ!!) ぎゅうぅ、と抱き締められて困惑していると、 「ごめん。こんなこと言うのおかしいかもしれないけど。嬉しくて」 (……は?) 「いやだって君、そういうの全然言ってくれなかったじゃない」 「それは、」 言えるはずないだろう。 身分差もあるし、ジュリアスは何れ俺の元を去っていくだろうと思っていたのだから。 そう言うと余計腕に力が込められた。 「きつっ、」 「俺が君の元から離れる? どこをどうしたらそんな話になるのかな」 ハイライトが消えた瞳で見つめられ、ひゅっ、と息を呑んだときふいに口づけられた。 ただし、今度のは先ほどとは違って乱暴でどこか切羽詰まったようなものだった。 「……ふ、……うん、」 息継ぎすらまともにさせて貰えず、俺の口からどちらのともしれない唾液が漏れる。 その間にも口腔を蹂躙され、俺を抱いていた腕はいつの間にかシャツを捲りその下で──。 「っ、」 勝手知ったる指先が俺が反応を示す箇所をやさしくなぞり、思わず背を仰け反らせる。 「……俺は君が好きだよ。それだけじゃだめなの?」 やっと口づけが終わると、ジュリアスが泣きそうな顔をしていた。 息を呑んだ俺を欲望と哀しみに翳った瞳で見つめながら、 「俺は君のことをずっと捜してたよ。こうして会えてとても嬉しいんだけど君は違うのかな?」 「俺は……」 「俺は君がいなくなったら、この世界に未練はないよ」 (え、) 驚いてジュリアスを見るがその眼差しは変わらず、本気だと分かった。 (なん、で) 「やっぱりまだ信じられない? ならもう俺は……」 「待て」 ジュリアスを泣かせたい訳じゃない。 なのに、 「なに?」 今ジュリアスを苦しめているのは自分だ。 気付いた事実にぞっとしながら、俺は言葉を紡いだ。 「俺はジュリアスが好きだ」 「うん」 「あんたを苦しめようと思ってあんなことを言ったんじゃない」 「うん」 俺はひとつ息を吸い、言った。 「あんたが本当にそれでいいなら恋人になってもいい」 言ってから、はたと気付く。 (言い方がおかしい) これでは俺が立場が上のように聞こえる。 「今のは──」 「やったっ!! OKなんだねっ!! 言質は取ったからっ!!」 (え、は?) 俺が呆気に取られていると、ジュリアスはいつの間にかスマートフォンを手にしていた。 『……恋人になってもいい』 俺の台詞がリピートされる。 「……録音」 「ちゃんとしたからね。取り消しはなしだよ」 先ほどまでとは打って変わって上機嫌のジュリアスが俺を抱き寄せる。 「もう。ひやひやしたよ。ちゃんと転生の際に女神さまにお願いしたはずなのに全然会えないし。君は高校生だし」 (あー。それは)

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