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第6話

「ちょっと待って……」 話を終えると何故か目の前の頭が沈んだ。 (どうしたんだ?) 「それじゃあ何? 君はずっと俺が命令だけで君と付き合ってあんなことやこんなことをしてきたとでも?」 ぴき、と擬音が聞こえてきそうなくらい、神経質になっているのが分かったが俺としてはこう返すしかなかった。 「違うのか?」 だってそうだろう。 こいつは超有望な貴族で俺はただの平民で。 皆に慕われ必要とされるジュリアス。 いつも叱責を浴びている俺。 どう考えたって釣り合わない。 「あー。さっきの誤解、ってそういうことか」 それにしても、とか何とかぶつぶつ言ってるようだが。 さっきからだんだん頭がぼんやりしてきているので上手く考えが纏まらない。 「言っておくけど、この俺がたかだか上役に命令されたからってそんなことするなんて有り得ないから」 「……そうなのか?」 余計分からない。 俺なんかとそんなことして一体何のメリットがあるんだ? 「確かに似たようなことは言われたけどね。それだけでこんなことするように見える?」 ジュリアスの顔が近付いてくる。 「~~っ、」 俺は必死に身を捩った。 (くっ、何だこのばか力っ!!) 後少しで届く、というところでそれは止まった。 「……?」 「ごめん。そんなにイヤだった?」 「違うっ!! ただ……」 どう説明したらいいのだろうか。 俺じゃジュリアスに釣り合わない、と言えばいいだけなのにそうしたら何かに負けたような気がする。 「ただ、何?」 ジュリアスの吐息が唇を掠め、息を呑む。 体の奥底からの熱はその先を促すように激しくなっていくが、俺はその欲を無理やり抑え込んだ。 「お前は腕も立つし、誰にでも愛想がいいし……」 (ヤバい。泣きそうだ) 背に回った腕が、その真摯な眼差しが俯くことを許さない、と言っているようだった。 「それで?」 「……折角新しいところに来たんだ。別に相手は俺じゃなくてもい、」 その先は続けられなかった。 熱を帯びたようなジュリアスの顔との距離がゼロになったからだ。 (熱い……) 前の世界で何度もしたから流れはわかっているはずなのに俺はまるで飢えたようにジュリアスに先を促した。 貪るような口づけが終わると、離れる寸前ジュリアスが俺の唇を舐めた。 「っ、」 背を仰け反らしてしまった俺の首筋にジュリアスは唇を寄せながら、 「相変わらず敏感なんだ。まさか、もう誰かに触らせた?」 「……違う」 経験はなくても、前世での記憶からこの先何があるのかくらい分かっている。 痛いくらいの渇望が身体中を走り抜ける。 それにひたすら耐えていると、 「本気でやばいな。このまま押し倒してしまいそうだ」 別に構わないが。 その思いが顔に出ていたのだろう。 「俺、犯罪者になるつもりはないからね」 ひどく真面目な顔で言われてしまった。 「……だめなのか?」 そういった方面には詳しくないが互いに了承していればいいのではないのか、と言うと、 「相手が未成年の時はそれじゃだめなんだよ」 落ち着けようとしているのか、下を向いて何度も息をついているジュリアスに、 「別に構わないだろう。前の記憶があるんだから」 別に愛人でも何でも構わなかった。 きっと俺はジュリアスの一番にはなれないんだろう。 『勘違いするなよ』 前の世界で散々言われた言葉だ。 貴族の出だというのに少しもそれを嵩にきないジュリアスに惹かれる相手は山ほどいて。 貴族の四男だというその少年はジュリアスのことを誉めに誉めた後、こう言ったのだ。 『いいか。貴族には愛人なんか当たり前なんだ。その末席に座れた位でいい気になるなよ』 俺がジュリアスとそういう仲だと知った奴らは一部を除いて皆、そんな反応だった。 (言われなくても分かっている) だけど。 『君を見付けたら一番に抱き締めてあげるよ』 あの時、俺は期待してしまったのだ。 そんなことは有り得ない、と思いつつももしそうなったらジュリアスと本当に恋人同士になれるんじゃないか、と。

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