東京のど真ん中というのにその屋敷はまるで海外のおとぎ話に出てくる洋館のようだ。庭にはバラ園や噴水があり、都会を忘れてしまうほどの広さを誇っている。 この洋館『望月邸』は、日本を代表するグローバル企業・望月自動車株式会社代表取締役社長である望月誠一郎と、息子で営業部部長として働いている桔梗、高校二年生の娘・桜子が暮らしている。 ところで、この屋敷の使用人・古森楓は地面に落ちている落ち葉の片付けに精を出していた。 「ふぅー、片付いて良かった。でもまた強い風が吹いたら元通りかなぁ……」 片手に庭ほうき、片手にちりとりを持ち、夕焼け空を見上げると１１月の冷たい風が吹いて思わずぶるっと身震いをした。 　楓には親がいない。父親は楓が八歳の時、仕事帰りに信号無視したトラックに巻き込まれて亡くなった。それから母親と二人で慎ましく暮らしていたが愛する夫を亡くしたショックと仕事の過労で二年後に病気で亡くなった。そして身寄りのない楓は十歳で施設に預けられる事となった。 　六年前の春の日、施設に訪問に来ていたまだ大学を卒業したばかりの望月桔梗は楓を一目見るなり望月の家に引き取りたいと申しで、結果学校に通わせてもらいながらここで使用人として働くこととなった。 　施設の中で楓は同じ子供からはいじめられ、職員にも雑に扱われていた。それも貧弱な体とこの緑色の瞳と栗色の髪のせいだったからだろう。両親は二人とも黒髪、黒色の瞳だったからこれは隔世遺伝かなんかだろうと楓は自分自身を無理矢理納得させていた。 　兎にも角にも、ここから救い出してくれた桔梗の事を楓は尊敬していた。そしていつでも優しく温かい手を差し伸べてくれる桔梗に対して尊敬の気持ちから恋心に変わるのにさして時間は掛からなかった。 「桔梗様……、今夜も遅いのかな。ここしばらく顔を合わせてないな……」 俯きながら落ち葉の入ったゴミ袋を両手に持ちゴミ捨て場まで歩こうとした時、聞き慣れたエンジン音が遠くの方で聴こえた。 ――この車の音は…… 　ゴミ袋を持ったまま屋敷の駐車場まで走っていくと、丁度そこには運転手がドアを開け車から降りてくるスーツ姿の桔梗の姿があった。 「桔梗様！おかえりなさい、今日はお早いんですね」 「ただいま、楓。残業と出張続きだったからね、たまには早く帰らないと。楓は……落ち葉拾いかい？」 「あっ……！」 ゴミ袋を指さされると楓は咄嗟に背中に隠したがゴミ袋を持ってきてしまったことが恥ずかしくなって顔を真っ赤にした。 「急いできてくれたんだろう？ありがとう、楓。」 くすくす笑いながら優しく頭を撫でてくれるのは恥ずかしい気がするけれどその温かい手が嬉しくて愛おしくて楓はそっと目を閉じされるがままになった。 ――優しい優しい桔梗様。あなたに出逢えて僕は本当に幸せなんです……